フェンシングが日本で生き残っていくには、東京オリンピック(五輪)での成功が絶対条件。私は慶大4年時に全日本選手権の個人戦を制覇しましたが、その優勝インタビューでフェンシングの第一線を退くことを宣言し、一般企業に就職。現在は消費財メーカーのP&Gで働いています。

選手として続けたい気持ちはあったのですが「働く」とは何かを考えた時に、選手を職業とすることには納得がいきませんでした。「働く」とは自ら価値を創出し、収益を上げること、社会に貢献することだと思っているのですが、野球やサッカーと異なり、当時フェンシングでは「セミプロ」の名の元に企業やJOCによる補助金に依存し、それによって競技を続けるしか選択肢がなかったのです。

しかしその後、フェンシング協会・太田会長の数々の施策によって流れは変わり、補助金への依存度は少しずつ下がり始めています。完全なるオブザーバーとして東京五輪を迎える私は、今大会を、日本におけるフェンシング競技の存続をかけた戦いだと考えています。

大会後は言わずもがな補助金が減っていくため、どの競技団体も事業収入(大会の観戦料など)や会費収入(競技者の協会登録費など)の絶対額を増やし、自立する必要に駆られます。見る人、やる人を増やすか、単価を上げることでこれらが可能になりますが、今大会は限られた人口を他競技団体と一斉に取り合う場でもあるのです。

しかし、前回大会よりも出場者や目標メダル獲得数が大幅に上昇している今大会においてフェンシングが目立つには、結果と話題性を両立し、相対的に評価される必要があると考えます。かつての北京とロンドンでは、その話題性で注目を集めたフェンシング。今大会でも、選手たちがドラマとともに結果を残してくれると信じています。

そしてフェンシングが補助金依存体質から完全に脱却し、プロ選手が誕生する日もそう遠くないでしょう。プロ選手が誕生すれば、自ら価値を創出して収益を上げながら社会に貢献するという、真の意味で「フェンシングで働く」ことが、トップ選手の選択肢になるのです。

競技のために、社会のために、しかしそれを競技者が依存によらずに自立して成し遂げることができる健全な環境を作るために。東京五輪でフェンシング選手が輝くことを、心より願っています。(288人目)