世界ランキング1位で東京五輪を逃していた永山竜樹(28=SBC湘南美容クリニック)が、念願の初出場で意地の銅メダルを獲得した。準々決勝で不可解判定による一本負けを喫したが、敗者復活戦と3位決定戦を制し「金以上の銅」とも称賛された。あの時、何が起きていたのか。審判団に抗議した全日本男子の鈴木桂治監督(44)と、永山本人および相手のフランシスコ・ガリゴス(29=スペイン)から得た証言から、騒動の裏側に迫る。【木下淳】
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物議を醸した場面に、鈴木監督は「悪魔の6秒間」と怒りをあらわにした。前提としてガリゴスは昨年の世界王者。強かった。その締め技に永山が耐えていたところ、審判が「待て」。普通は止まるが、相手は力を緩めない。そこから5~6秒間、締められ続けた。
一方の永山は「待て」の声に力を抜いた。一瞬、意識を失う。あおむけになり「落ちた(失神)」と判断された。「待て」の後だったが、一本負けになった。
全柔連は文書で抗議。その前に審判団へ説明を求めに行った鈴木監督が、やりとりをつまびらかにした。
「まず『落ちたよね?』と聞かれて。締めが解けた後に落ちることはある。審判団は笑っているわけですよ。『だよね』と。僕らが言いたいのは落ちた、落ちてない、ではなく『待て』となった後の6秒間、絞め続けることが柔道精神に則っていますか? と。例えば関節技を6秒間、無抵抗の相手にかけたら反則負けですよね」と力を込めた。
しかし「平行線」をたどった。何を聞いても「落ちてるよね」の連続だった。唯一、審判団が認めたのは「待て」が間違いだった、こと。審判は試合を継続するべきだった、と。鈴木監督は「『待て』は選手にとって神の声にも悪魔の声にもなる。まさに悪魔の6秒間。地獄の6秒間。しまいには審判が『少しずつ落ちていくのを確認した』と言い始め、二転三転していた」と悔しそうに振り返る。
ガリゴスに取材を申し込むと、答えはこうだった。
「試合中は本当に頭が真っ白になる。全く聞こえないことは今までも何度もあったし、実際に何も聞こえなかった。近づいてきた審判を見て『待て』と分かった後、動きを止めて手を離した時、ナガヤマが気を失っているのを知ったんだ」
試合後の永山は握手も拒んで抗議。スペインの応援団など観客からブーイングを浴びたが、畳を降りたら終わり。約5分間、居残って映像確認を求めたが、状況は動かなかった。礼をして退いた際に「待てって聞こえた」と漏らしていた。
表彰式の前、取材に応じた永山は神妙だった。「『待て』は聞こえたけど、やっぱり、そこで自分が気を抜いてしまったので。首が締まっているところに指を入れて耐えてたんですけど『待て』で力をちょっと抜いたところに、入られてしまって。そこから記憶がない。気づいたら、ああいう形で。正直、何が起きたのか。自分に隙があったのかな」と。それ以上は言わずに、銅メダルに集中した。
判定が覆るどころか、永山が畳に残って抵抗したことに対する厳重注意を受けたという。鈴木監督は「柔道家として、ふさわしくない行動だったかもしれないけれど、問題提起になれば」と理解を示す。再発を防ぐ声は上げていくが、後味の悪い柔道初日となった。



