元スペイン代表で、ヴィッセル神戸でもプレーしたFWダビド・ビジャ氏の新たなプロジェクトが進行している。

8月末に日本で、海外挑戦を後押しするトライアウトを初めて開催した。合格した2人が9月に入り、スペインに渡った。

ビジャ氏は引退後、日本にも、世界各国で展開しているサッカースクール、イニシャルに現役時代の背番号7を加えた「DV7」を開校するなど、日本の若い才能の育成に力を入れている。

関係者によれば「日本で可能性にあふれた多くの若い選手を発見した」と、現役最後にプレーしたこの国のサッカーに、可能性を見いだしているようだ。

今回はコロナ禍の中、感染対策をし、関東でトライアウトを開催。100人近くのプロを目指す実力者が応募。ビジャ氏もオンラインで選考にかかわり、2人を選出した。

“スペイン切符”を手にした2人はすでに、同氏が経営に参画するスペイン4部のジャネーラというクラブに合流し、日々汗を流している。海外でプロサッカー選手になるため、日々、アピールしている。力が認められれば、正式契約の運びとなる。

挑戦者の1人、MF藤島樹騎也(24)は石川・星稜高3年時の14年度、全国選手権を制した。中京大卒業後、ドイツなどで海外挑戦したが、けがもあり、プロになる夢をかなえられないでいた。

新型コロナウイルス感染拡大により、この春、プレーしていたオーストリアから早期の帰国を余儀なくされたところ、思わぬチャンスが。2日間のトライアウトで武器であるドリブル突破が認められ、“スペイン切符”をもぎ取り、9月8日に日本をたった。

「ようやくプロになる足掛かりをつかんだという感じです。本当にここから。しっかり生き残って契約を勝ち取りたいです」と話す。

名古屋グランパスのジュニアユース出身で、1年延期となった東京五輪代表入りが期待されるGK小島亨介(23=アルビレックス新潟)は当時のチームメートだ。

今後、藤島はスペインのチームでビジャの訪問を受け、対面し激励、そして厳しいアドバイスも受ける予定だ。今から「いっぱい聞きたいことがありすぎて、何から聞いたらいいのか…。とにかく、1対1(での対戦)をお願いしてみたい」。対面どころか、いきなりの“挑戦”を心待ちにしている。

サポートは手厚い。今回の渡航費は往復全額が支給され、現地での滞在先も準備された。DV7のスポンサー企業パワーワークの協力で、渡欧前には、働きながらトレーニングする環境も用意されていた。

現地で必要なお金は、食費くらい。街はのどかで、あまり何もない。「とにかくサッカーに集中できる」と夢を追う。

過去、欧州の複数の国で練習参加から、実力をアピールし、下部のクラブでプレーしてきた。「海外は結果。評価基準が、結局点を決めればいいという部分もある」と、経験をもとに結果にこだわる覚悟でいる。

樹騎也(じゅきや)という名には、「樹」木のように太く強く、「騎」士のようにたくましく強く、「也」=なる、という両親の思いが込められている。

コロナ禍で社会もスポーツも、依然、苦しい状況にある。渡航制限もあり、この時期に海外で挑戦することは、かなりのリスクを伴うことも理解している。

それでも、夢をつかもうと、覚悟を決めた。「もしかしたら、これも全部コロナのおかげといえる日が来るのかもしれません」と終息後を見すえる。

コロナ禍で自分を見つめなおし、考え方を変えた。そして今、藤島は、はっきりと夢を描く。

「今までは目の前の相手を抜く、それだけを考えて、1つ1つ、目の前のことを積み重ねてきた人生でした。でも、今はもっと大きい目標、プロジェクトが自分の中にあります。3年以内にスペイン1部で戦える選手になる、そう思っています」

ワールドカップ(W杯)で優勝し、世界の頂点にも立ったストライカー、ビジャ氏の存在と評価も励みに、新たな挑戦を決めた。

そして、その夢をサポートするビジャ氏は、引退後の今も、日本サッカーの可能性を信じ、手を差し伸べ続けている。【八反誠】