「いきま~す!」の声がドーハの空に響く。女子やり投げの日本記録保持者北口榛花(21=日大)が、初の世界選手権(9月27日~10月6日、ドーハ)に向かう。7月の代表会見では「世界の舞台でも臆することなく、自分を表現したい。世界の舞台で62メートル以上を連発したい。自己ベストなら入賞もある」と口にした。


陸上世界選手権女子やり投げに出場する北口
陸上世界選手権女子やり投げに出場する北口

衝撃の一投で、道を切り開いた。5月の木南道隆記念。北口は5投目に64メートル36のビッグスローをぶちかました。海老原有希の持っていた従来の日本記録を一気に56センチ更新。「日本記録をやっと更新できたという気持ちが大きい」とほおを紅潮させた。しかも20年東京五輪の参加標準記録(64メートル00)も突破。フィールド種目では日本勢第1号となった。

将来を嘱望されてきた大器だ。16年5月に日本歴代2位の61メートル38を出して、注目を集めた。だが右肘痛などもあって、リオ五輪出場は逃した。その後も記録が伸び悩んだ。

変化するために、新しい環境に飛び込んだ。昨年11月、フィンランドで開かれた世界的なやり投げの会合に出席。やり投げ大国チェコの指導者に「コーチをしてくれませんか?」と必死に頼み込んだ。メールでの交渉を続けて、今年2月に約1カ月、単身でチェコに修行。女子世界記録を持つシュポタコバの助言も受けた。天性の肩の強さに、助走の技術や厳しい鍛錬が加わって、競技歴わずか3年で世界ユース選手権を制した才能が開花した。北口は「ゆくゆくはオリンピック、世界選手権で金メダルが獲得できるように頑張りたい」という。


今年6月の日本選手権、決勝4本目で自身が直前に出した大会新記録を更新した北口
今年6月の日本選手権、決勝4本目で自身が直前に出した大会新記録を更新した北口

日本女子やり投げは戦後、世界大会での入賞がない。世界選手権は11年大邱大会の海老原有希の9位が最高。北口は、日本女子が阻まれてきた壁を超えていく可能性がある。7月以降はチェコを拠点に欧州で試合に出ながらドーハに向かう計画を練った。「3カ月、留守にします。こんなに長いのは初めてですが(チェコの)コーチにずっと見てもらえるのは技術的にも精神的にも安定するので。どこまで仕上げられるか、わくわくしています」。父幸平さんがパティシエで、ヘーゼルナッツが実る「榛(ハシバミ)」から「榛花」とつけられた21歳が、ビッグアーチをかける。


◆北口榛花(きたぐち・はるか)1998年(平10)3月16日、北海道旭川市生まれ。3歳で水泳を始めて、小6時にはバドミントンの全国大会で団体優勝。旭川東高1年までは競泳と陸上の二刀流。同2年から陸上に専念し、競技歴3年目で15年世界ユースに出場し日本女子では投てき種目初となる優勝。同10月の日本ジュニア選手権では58メートル90の高校新を樹立。同年、日本陸連が東京五輪での活躍を期待する若手「ダイヤモンドアスリート」に認定された。19年5月に日本記録64メートル36。好物はカステラや大福。パンやスコーンを自分で作ることもある。身長179センチ、体重86キロ。