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伊藤華英のハナことば

釜石が新たなラグビーのまちへキックオフ/伊藤華英

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 2018年8月19日、東日本大震災で大きな被害を受けた岩手県釜石市に素晴らしいスタジアムが建設された。

 「釜石鵜住居復興スタジアム」。その場所は元々、釜石東中学校と鵜住居(うのすまい)小学校があったところ。2011年3月11日、両校は津波で浸水。たくさんの思い出がなくなった。

 周辺地域の被害は甚大だった。陸前高田市で亡くなった方は1602人、行方不明203人。大船渡市は422人が亡くなり、行方不明79人。釜石市は933人が亡くなり152人が行方不明。家屋崩壊は3656となっている。


キックオフ宣言をする洞口留伊さん
キックオフ宣言をする洞口留伊さん

 お話をうかがったのは、この日行われた開場イベントで記念すべきキックオフ宣言をした女性だ。現在釜石高校2年の洞口留伊(ほらぐち・るい)さん。第一印象で「純粋」な人だと感じた。この釜石鵜住居復興スタジアムができ、心から喜んでいる。話を聞くこちらも、その純粋さに身の引き締まる思いだった。

 なぜ彼女がスタジアム開場のスピーチに選出されたのか。洞口さんは被災後、釜石東ロータリークラブが地元の中学生を対象に募集した2015年ラグビーワールドカップイングランド大会の視察に応募した。そして現地でスコットランド戦を見てラグビーファンになった。

 さらにこの渡英で将来の目標もできた。「英語を学びたい」。現地での経験に加え、行き帰りの機内でキャビンアテンダントの仕事に触れ、「将来はCAになりたい!」と思い描いた。

 スピーチの内容は、以下の通りだ。

  ◇  ◇

 わたしは、釡石が好きだ。海と山に囲まれた、自然豊かな町だから。わたしは、釡石が好きだ。空気も人の心も、温かくてきれいな町だから。わたしは、ラグビーが好きだ。釡石でのラグビーワールドカップ開催を知り、市が募集をしたラグビー親善大使に応募して2015年のイングランド大会で人生初のラグビーを観戦し、会場の雰囲気とその迫力に圧倒されたから。わたしは、ラグビーが好きだ。試合後、ファン同士が敵味方関係なく握手をし合い、一緒になってゴミ拾いをしている姿に感銘を受けたから。

 7年前の3月11日。小学校3年生だった私は、算数の授業を受けていた。防寒着を来て、校舎の5階へ逃げた。土砂崩れが起きて、もっと高くへ逃げた。うしろを振り返れば、鵜住居を飲み込む津波が見えたかもしれない。けれど、私は「とにかく逃げなきゃ」と焦っていた。たまたま通りかがったトラックに乗って、町の体育館へ避難した。

 1列に並んで2人ずつ分けたおせんべい。コップ一杯の水。そのときの自分の気持ちはうまく思い出せない。数日たっておにぎりを1つ食べられたときに、食べられること、生きていることのよろこびをじんわりと感じたことは覚えている。

 当時の私に、「この町にラグビーワールドカップがやってくるよ」と伝えても、きっと信じてくれないだろう。2019年。大好きな釡石のまちで、大好きなラグビーの国際大会が行われる。そして、このスタジアムは、完成した。そして、釡石は、世界とつながる。いま、私がしなければならないことは、あのとき、釡石のために支援をしてくれた日本中の、そして世界中の人たちにあらためて感謝の思いを伝えることだと思う。そして、私がイングランドで感じたように、町を盛り上げることが大切だと思う。このスタジアムがつくられたのは、私の小学校があった場所。入学するはずだった中学校があった場所。そして、離れ離れになってしまった友だちと、また会える大切な場所。

 今日は、そんな思いのつまったスタジアムが生まれた日。日本中の釡石を愛する人たちと、世界中のラグビーを愛する人たちと、この日を迎えられたことを祝い、そして感謝したい。

Thank you everyone in the world for your support.

We have recovered and will move onwards from the earthquake.

We are looking forward to seeing you in Kamaishi next year.

 このスタジアムはたくさんの感謝を乗せて、いま、未来へ向けて出航していく。未来への船出

2018年8月19日

釡石高校2年 洞口留伊

  ◇  ◇

 思いを込めたというこの文章。

 被災当時、彼女は鵜住居小学校の3年生。

 「一番つらかったことは、物は買えるけど、思い出の写真やその時しか刻めないものが無くなってしまったのは本当に悲しいし、悔しい。でも、震災があったからこそ、イングランドに行き、将来の目標ができた」

 続けて、「この経験や、思いは被害に遭われた方たちの上にあるものだと思っている。一生懸命生きて生きたい」と。

 この、釜石鵜住居復興スタジアム。みんなの気持ちが一つになる場所になると感じた。地域の人たちが、芝の種を蒔き育てた。

 このスタジアムは人が集まる場所になる。場所になっていく。

 そんなことを感じた。

 会場に訪れたラグビーファンの温かさはどこから来るのだろうと感じていたが、開幕式のレジェンドマッチ「新日鉄釜石-神戸製鋼」で明らかになった。

 新日鉄V7時代の誰もが知っているスタンドオフ松尾雄治さんや、神戸製鋼の大西一平さん、冨岡剛さんも参加した。お客さんの笑顔を見ていたら、本当に当時の光が彼らだったのだと心から感じた。


釜石で開催されたレジェンドマッチに拍手を送る観衆
釜石で開催されたレジェンドマッチに拍手を送る観衆

 釜石はここから、いろんな人たちの思いを乗せて新たなラグビーの町へ輝かしいスタートを切った。

 来年のラグビーワールドカップ2019で、釜石鵜住居復興スタジアムでの開催は9月25日、10月13日と決まっている。

 ぜひ、足を運びたいと思った。

 釜石市の皆さんありがとうございました。

(伊藤華英=北京、ロンドン五輪競泳代表)


競泳界で「美女スイマー」として活躍し、北京、ロンドン五輪に出場した伊藤華英さんが、水泳に限らずさまざまなスポーツの魅力をアスリート目線でお伝えします。
 ◆伊藤華英(いとう・はなえ)1985年1月18日、埼玉県生まれ。01年世界選手権で初の日本代表入り。08年北京五輪で背泳ぎ2種目出場、12年ロンドン五輪で自由形リレー2種目出場。12年秋に現役引退。順大大学院博士後期課程修了。日大非常勤講師。173センチ。

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