ジャンプ男子個人ノーマルヒルで金メダルが決まった小林陵侑が、兄潤志郎と抱き合って雄たけびを上げた直後、別のテレビ画面がモーグル女子の川村あんりの涙を映し出した。メダルを逃して「本当に悔しい。申し訳ない」と言葉をしぼり出した。17歳の金メダル候補は、決勝でほんのわずかに着地を乱して5位に終わった。五輪は残酷だと思った。
川村と銅メダルの得点差は0・6点。素人目では判断できないほどの小さなミスが、人生の明暗まで分ける。スポーツの非情な一面を目の前に突きつけられたようだった。メダル候補たちは誰もが想像を絶する努力を重ね、多くを犠牲にして競技にかけてきた。勝負は時の運とはいえ、明と暗の想像以上の落差が、何とも理不尽に感じる。
前日にも印象的な涙を見た。ジャンプ女子個人で4位に終わった高梨沙羅。試合後、彼女は「頑張りが足りなかったんだと思う」と、目の中いっぱいに涙をためた。小林の26勝を上回る日本人最多のW杯61勝を挙げた第一人者。前回の銅を超えるメダルを期待されたが、1回目のジャンプで上位5人中、有利な向かい風がもっとも弱く、5番手と出遅れたのが痛かった。
五輪でメダルを手にするのはほんの一握り。大多数が栄光の喜びに浴することなく舞台を去る。不条理に満ちて、なかなか思い通りにいかない。努力が実を結ぶとは限らないし、思いもしない不運に夢がついえたりもする。まるで人生の縮図のようで、だから人々が強く引きつけられるのかもしれない。
高梨が出場したジャンプ女子は、今季W杯6勝の20歳のマリタ・クラマー(オーストリア)が金メダル最有力候補だったが、出国前の新型コロナウイルスの検査で2度陽性となり出場できなかった。インスタグラムには「言葉もない。感情もない」とつづられていた。五輪の舞台に立ち、勝敗はどうあれ全力を出し切って、涙を流すことがいかに幸せか。コロナ禍の五輪があらためて教えてくれた。
「支えてくれた人に感謝しかない。次のオリンピックまでにちゃんと準備して、次こそ金メダルを」。インタビューの最後に川村は言った。その言葉を聞いて、何だかうれしくなった。その心意気だ。今日の涙が味方になる日はきっとくる。7位に終わった前回平昌五輪の悔しさをばねに、表彰台の一番上に立った小林が、最高のお手本になるはずだ。【首藤正徳】



