米フロリダ州オーランドでは毎年この時期「PGAショー」と呼ばれる、ゴルフメーカーが共同で出店する見本市が行われる。日本でも「ゴルフフェア」という見本市があるが、「PGAショー」はそれと比べてはるかに規模が大きい。


●年に1度のギアの祭典


 初日のクラブ試打を行う会場は対面で500ヤード以上ある巨大な円形の野外練習場だ。そこで各メーカーが最新のクラブを揃え、芝から思う存分クラブを試すことができる。

 2日目から4日目の会場となるコンベンションセンターだが、奥行き1000メートル弱の会場は端から端まで歩くのに10分ほどかかった。室内には80ヤードの試打スペースがあり、打席数も30ほどある。試打スペースだけで都心にある小さな練習場を移植したくらいの規模だ。

 さらに3階建てのコンベンションセンターの各階では、メーカー主催の勉強会なども盛んに行われている。各メーカーがブースを出展し、新商品の発表や販売会を行うのだが、出店場所や規模でその年の各メーカーの勢いを感じることができる。特にこの見本市に力を入れているのが、キャロウェイとタイトリストだ。

 両社ともアパレルにも力を入れていることもあり、例年にも増して大きなブースを展開していた。クラブだけにとどまらず収益源を確保するというのは、各メーカーの世界戦略のようだ。ゴルフクラブ事業から撤退したナイキとアディダスもアパレル事業だけは継続をしており、ゴルフウェアの市場は今後もさらに競争が激化しそうだ。


 ゴルフクラブの傾向で見られたのは、よりやさしく簡単に飛ばせるオートマチックなクラブのリリースが多かったことだ。

 キャロウェイのエピックシリーズや、テーラーメイドのM1、M2シリーズなど、対象のレベルを広く持たせ、選べるようにしている印象だ。アベレージゴルファーはより安定したボールを打つために、上級者は無理なくスコアメークをさせるためのモデルが目についた。

 日本のメーカーでも近年の売れ筋は、アベレージモデルが多くを占める。若い世代の競技人口が伸びずマーケットが縮小傾向にある中で、道具に投資するベテランゴルファーを狙った製品が多くなるのはアメリカでも同様だ。


 そんな中、目新しかったのは計測機器のメーカーだ。計測機器自体が出始めたころは、多くの新興メーカーの出展が見られたが、今回は既存のメーカーが最新のテクノロジーに投資をして製品化した機器がいくつか見られた。

 計測機器メーカーのフライトスコープは、今まであった弾道の計測機器に体重移動の測定機器や脳波を測定する機器を連動させていたが、今回パッティングのストロークを計測できるようになり、今後さらに1つの機器で多くの情報が得られるようになるだろう。これまで技術の進歩はクラブやボールにのみ向けられていたが、今後は人の動きを矯正できる方向に向かうのではないだろうか。近い将来、バーチャルリアリティーで理想のスイングを体感できたり、計測したスイングをAIが分析して、最適なメソッドを提供する仕組みなどもできるかもしれない。

ファーマーズ・インシュアランス・オープンで復帰したタイガー・ウッズ(AP)
ファーマーズ・インシュアランス・オープンで復帰したタイガー・ウッズ(AP)

●大きな2つの契約


 「ナイキやアディダスがクラブから撤退したことは大きなショックだったね。これからはよりメーカー間で差ができて淘汰が加速するような気がする」

 あるメーカーの担当者は今後、メーカーの規模やブランドの知名度に関わらず、さらなる再編の可能性を示唆した。

 ナイキがゴルフクラブから撤退したことで、契約していたプロたちの動向に注目が集まっていたが、今回PGAショー前日に発表されたタイガー・ウッズとテーラーメイドとの契約は、現地でも最大のビッグニュースだった。

 ウッズは、同じ週に行われた復帰戦のファーマーズインシュランスで、ドライバーとフェアウェーウッドをテーラーメイドを使用していた。

 結果は予選落ちとなったが、1日目に左右に散っていたドライバーショットを2日目にはすぐに修正してみせた。今後、細かい調整を重ねることで、ウッズの復帰を大きく前進させる武器となるだろう。


●プロがクラブを変えるとき


 「さまざまなメーカーのクラブを試したが、パフォーマンスの面からテーラーメイドを選んだ」

 ウッズは今回のクラブ選定についてこのように語っている。ただしアイアンとウェッジに関してはまだナイキを使用している。「アイアンに関しては調整中」というように、今後時間をかけて「タイガー仕様」のアイアンを作り上げていく。

 縦横高さのコントロールを厳密に求められるアイアンは、クラブセッティングの軸であり、他のツアープロもモデルを変更する際には最も神経を使う部分だ。

 これはアマチュアのクラブ選定にも参考になる。


●アマチュアのクラブ選び


 春先になると各社ニューモデルの発売となるため、セッティングの見直しをするアマチュアも多い。その際にはぜひ今回のタイガーのようにウッドから段階的に変えていくことをおすすめする。

 新しいモデルが出た際にウッドからアイアンまで、同時にニューモデルに変えてしまう人がいるが、クラブを変えることでスイングが変わる可能性があるので、セッティングの中で軸となるアイアンは一緒に変えるべきではない。

 ウッドが十分なじんだ時点で、アイアンのモデル変更を検討してほしい。新しいものでスコアアップを目指す気持ちもわかるのだが、急がば回れ。セッティングの変更は慎重に行ってほしい。


 ◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。シングルプレーヤー養成に特化したゴルフスイングコンサルタント。メジャータイトル21勝に貢献した世界NO・1コーチ、デビッド・レッドベター氏を日本へ2度招請し、レッスンメソッドを直接学ぶ。ゴルフ先進国アメリカにて米PGAツアー選手を指導する50人以上のゴルフインストラクターから心技体における最新理論を学び研究活動を行っている。早大スポーツ学術院で最新科学機器を用いた共同研究も。監修した書籍「ゴルフのきほん」(西東社)は3万部のロングセラー。オフィシャルブログ http://hiroichiro.com/blog/


(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ゴルフスイングコンサルタント吉田洋一郎の日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)