笑い、そして泣いた2試合だった。今季6月のツアー選手権森ビル杯で初優勝を飾った市原弘大(フリー)。開幕時点では日本のシードも持っていなかった36歳は、この1勝で2つの大舞台への切符をつかんだ。

 2年ぶり3度目となる7月の全英オープン(カーヌスティ・リンクス)。いきなり大変だった。過去2度悩まされたロストバゲージを免れたと思ったら、目的を伝えた入国審査で怪しまれた。「君は本当に全英オープンに出るのか?」。持っていたエントリー関連の書類を見せると、ようやく信じてもらえた。そんなひと幕も「オーラがないから仕方ない」と言って笑い飛ばす。大会は第1日の78が響いて通算8オーバーの118位で予選落ち。「飛距離という面ではすごく差があると思うけど、それ以外の部分、方向性だったり、戦えなくもないところもあった。やりようはある。まだまだ自分でうまくなれるかなって思いもある。頑張りたい」と、やはり笑顔で出直しを誓った。

 英国から世界ジュニアに出場した高校生の時以来という米国へ直接飛び、中1週で初出場した世界選手権シリーズのブリヂストン招待(オハイオ州)。54ホールを終えて71人中71位。最下位で迎えた最終日は早朝スタートの第1組を1人で回った。初アンダーパーとなる「68」をマーク。「こんなスコアでもいいショットには拍手をくれるし、途中からは何人か子どもたちがついてきてくれた」と69位フィニッシュにも現地のギャラリーは温かかった。

 「やっぱり、終わるとダメだ…」。トレードマークの笑顔を絶やさなかった4日間を戦い抜くと、涙があふれた。開幕前日、ジュニア時代に指導を受けた千葉晃氏(享年73)の訃報に接していた。幼少期、雑誌でジュニアレッスン連載をしていた千葉氏にゴルフの手ほどきを受けた。最後に顔を合わせたのは、ツアー選手権の優勝報告をするために入院先の病院を訪問した時だった。「覚悟はできていたんですけど、いざ亡くなってみると…。1人で回っていると、何か(千葉氏と)一緒にいるような、見てくれているんじゃないかなって思ったりした。そういう思いがあったから、こういうスコアでも最後までしっかり頑張れた」と神妙に言った。

 かつてはアジアツアーを中心に海外を積極的に転戦。「増刷した10年用パスポートの中身も、9割方アジアの(出入国)スタンプで、ごくまれにヨーロッパ。何か、ヤバイ仕事みたいですよね」と冗談めかす。5年シードを得た今、再び目を向けている。「アジアのシードをもう1度取って、そこからヨーロッパとのジョイント(共催大会)に出て、(世界選手権シリーズの)HSBCとかマレーシアの(米ツアー)CIMBとかに出るチャンスをつかんで…。地道に、順を追って、目標をぶらすことなくやりたい」。状況次第では、アジアツアーのクオリファイングトーナメント(QT)を受けることも考えているという。

 「お通夜とかには間に合わないし、さすがにバタバタしていそうだから、落ち着いてからうかがいたい。順位的にはいい報告はできないですけど、これからもしっかり頑張っていきますという報告はできるかな」。何よりもまず、亡き恩師への報告のタイミングを考える律義な男は、濃密な時間を終えて日本へ戻った。【亀山泰宏】