比嘉一貴(23=フリー)が、前週ブリヂストン・オープン(千葉)で自身ツアー初トップ10となる9位に入った。

2週前の日本オープンは予選落ちだったが、その名前を聞く機会があった。最終日最終組を回るなど5位に入った竹安俊也が、練習ラウンドで比嘉に低い球を打つコツを聞いて良くなったと感謝していた。その話を伝えると、意外な反応が返ってきた。「聞かれたことには答えましたけど、まさかやるとは思ってなかったですよ。実は、以前あの打ち方をマネしようとした同期が2人くらいドライバーの“イップス”になってるんです。(竹安)俊也さんにも『そういうこともあったので、あまり参考にしない方が…』と最初に言ったんですけど、それを日本オープンでやるなんて…」と驚いた様子だった。

「左軸のまま打つ」低弾道のショットは、沖縄の風の中で腕を磨いてきた比嘉にとって、ごく自然に身につけた技術だった。「みんな打てるものだと思ってました」。持ち味だと自覚したのは、全国トップクラスの選手が集まる東北福祉大に入ってからのこと。「みんな『どうやって打ってるの?』って聞いてくるんです。僕からすれば『みんな打てるんじゃないの?』という感じだった」と振り返る。

4月には、その“武器”を生かしてアジア下部ツアー、BTIオープン(バングラデシュ)で優勝を飾っている。「でも、あっち(アジア)の人の方がうまいんですよ。(低い球をより)操ってくる」。賞金も環境も、日本に比べればはるかに劣る舞台で目を見張ったのは技術だけではない。「ハングリー精神がすごい。日本ツアーはすごく賞金もいいし、みんな来たがっているかと思ったけど、意外とそうでもないんですよ。賞金じゃなくて(レギュラーで共催競技が多くある)欧州ツアーに行くためとか、次につなげようという意識が高い。正直、あまり日本を見ている人はいませんでした。みんなうまいし(日本に)来たら活躍するんじゃないかと思いますけど…」と言った。

比嘉自身も、同じ方角を向いている。残り3試合となったアジア下部ツアーで賞金ランク8位。あと2試合となっている出場義務試合数「6」をクリアした上で、ランキングを上げられれば、来季レギュラーツアーのシードを確保できる。アジア下部の最終戦は日本のファイナルQTと同週開催だが、下部AbemaTVツアーでも優勝しており、来季日本のレギュラーツアー前半戦の出場権が与えられる賞金ランク20位以内は既に手中。迷う理由はない。「アジアからヨーロッパの方に行きたい。どんどん世界が広がっていってくれれば」。欧州の先には当然、最高峰の米ツアーも見据える。

海外でのプレーは「いろいろな話が聞けるので面白い」という。その点についても、沖縄で生まれ育ったことと無関係ではないようだ。「外国人慣れはしているかもしれないです。保育園や小学校から、同じクラスにハーフだったり両親とも外国人という子が珍しくなかった。米国やフィリピン、いろんな国の人がいる。小さい時から一緒にいたら、抵抗はないですよ」。沖縄を代表するトッププロで今季から欧州ツアーに挑戦している宮里優作にも、かつて同じような話を聞いたことがあった。

昨年日本のサードQTでスコア誤記により失格になった。痛恨のミスに周囲への申し訳ない思いでいっぱいになったが「でも、もともとアジアのQTは受けようと思っていたんです」。アマチュア時代は6年間、ナショナルチームでプレー。17年には、前年アジア・パシフィック・アマチュア選手権最終日に同組で回って優勝したカーティス・ラック(オーストラリア)が、マスターズに出場した。16年全米アマを勝って世界アマチュアランク1位にもなった選手。そんなスーパーエリートでもプロ転向後、簡単にはツアーに定着できない厳しい世界が海の向こうには広がっている。

「化け物ばっかりじゃないですか。今までテレビの中でしか見ていなかった選手たちとやりたいし、どれだけ差があるのか、間近で感じてみたい。最初から簡単に通用するなんて思っていません。行ってみて、くじけてみたいんですよ。砕けてでも…」。158センチの小さな体には、頼もしい勝負根性が宿っている。

【亀山泰宏】(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ピッチマーク」)

比嘉一貴(2018年10月20日撮影)
比嘉一貴(2018年10月20日撮影)