浅間山麓の高地に、水泳ニッポンの「虎の穴」が誕生する。長野県東御市で整備が進む「湯の丸高原高地トレーニング施設」。第1弾として日本一高所にある全天候型400メートルトラックなどが11月18日に完成した。20年東京五輪・パラリンピックに向けて標高1750メートルで計画が進む日本初の「高地プール」建設地を、日刊スポーツのドローンが上空からとらえた。【取材・構成=鹿野芳博、荻島弘一】


■標高1750メートル 国内初高地トレプール


 正面に湯ノ丸山、後方に西篭ノ登山(にしかごのとやま)、その先には浅間山が広がる湯の丸高原。寒風を裂いて浮かび上がったドローンが、全天候型400メートルトラックをとらえる。山間を縫って整備されたトレイルランとジョギングコース…。トラックに隣接して建てられるのが、水泳ニッポンの「虎の穴」、国内初の50メートル高地プールだ。

 冬はスキー、春~秋はハイキング客でにぎわう湯の丸高原が、一大高地トレーニングエリアの中核として生まれ変わる。構想は4年前からあったが、約30億円の建設費がネックとなり進まなかった。今年6月に20年東京大会に間に合わせるため「仮設」での整備を決定。雪解けの4月を待って工事を始める予定だ。

 「仮設」とはいえ、国際大会も開催可能な8レーンの本格的プール。プールだけの建設費が6億円、20年までの期間限定だが、維持費は年間5000万円かかる。これを賄うのが「ふるさと納税」と「企業版ふるさと納税」。花岡利夫市長(66)は「大丈夫。手応えはあります。必ず完成させます」と自信を見せる。

 これまで、国内の高地トレーニング場は陸上長距離が中心で、競泳陣は時差のある海外に出ていた。東京から車や新幹線で2時間半の近場に高地プールができれば、利用しやすくなる。日本水連の平井伯昌競泳委員長(54)は「いろいろ選択肢が増えるし、うれしいですね」。自身が水連会長の時に構想をスタートさせたスポーツ庁の鈴木大地長官(50)も「海外に行くよりも資金的に安く済む。スポーツが地方の活性化にもつながる」と歓迎した。

 11月23日には、スキー場がオープン。陸上トラックやランニングコースは雪の下になる。しかし、プールは完成すれば通年で利用可能。ここが競泳陣の五輪好成績につながれば、当初の予定通り国設のプール建設に弾みがつく可能性もある。18、19日にはプール建設予定地に隣接する湯の丸高原ホテルで、高所トレーニングの国際シンポジウムも行われた。「湯の丸からセンターポールに日の丸を-」。ドローンが撮った高原には、水泳ニッポンの金メダルが埋まっている。


■ドローン撮影、最後は納得のフライト

<林野庁と東御市の許可を得て、湯の丸高原に建設中の高地トレーニング施設をドローン「ファントム4(DJI社)」で撮影>

 標高1750メートルの同地から機体を約149メートル上昇させると、浅間山や上信国境の山並みが一望できました。梅雨が明けた7月のフライトでは、400メートルトラックは建設が始まったばかりでしたが、2度目の11月時はトラックが舗装されていました。雨に泣かされ、撮影が何度も延期となりましたが、2度の撮影で映像の比較もでき、納得のフライトとなりました。【写真部・鹿野芳博】


 ◇400メートルトラック かつてテニスコートがあった場所に400メートルトラックが完成。トラック内は人工芝のサッカーピッチを整備予定。日本最高地全天候型トラックで、18日に走り初めも行われた。

 ◇テニスコート(8面) 現在も春~秋に多くの愛好家が訪れるテニスコート8面を整備。市民からアスリートまでがプレーできる高原テニス場を目指す。大学サークルなどのテニス合宿にも幅広く利用できる。

 ◇体育館 本来は体育館だが、20年まで仮設でプールを設置する。プールは50メートル×8コースで、国際規格にあったもの。21年以降は体育館として使用し、隣接する場所に常設プール整備を目指す。

 ◇トレイルランニングコース スキー場の斜面を利用したトレイルランニングコースは、ウッドチップなどを敷き詰めた本格的なもの。将来的には、高峰高原など近隣まで延伸して巨大ランニング施設とする計画も。

 ◇国設プール 仮設プールが成功して国への要望が通れば、常設施設が建設される可能性も。宿泊施設の湯の丸高原荘に隣接し、50メートルプールと飛び込み用25メートルプールの恒久施設建設が予定されている。


 ◆湯の丸高原 東御市の北部、浅間連峰・湯ノ丸山の山麓に広がる高原地帯。6月には60万株のレンゲツツジが咲くなど四季の高山植物が人気で、別名「花高原」とも呼ばれる。涼しい夏はキャンプ場を訪れる観光客も多く、手頃なハイキング、登山でも人気。11月下旬には6本のリフトを有する湯の丸スキー場がオープン。標高が高いことから雪質がよく「首都圏に一番近いパウダースノーのスキーリゾート」をキャッチフレーズにしている。


赤血球増え酸素運搬機能上がる

 低酸素、低圧の高地で行うトレーニングは、陸上のマラソンや競泳などの選手が積極的に行っている。標高2200メートルを超す高地で行われた68年メキシコ五輪がきっかけと言われるが、今では五輪や世界選手権などの大会前はもちろん、年間数回にわたり恒常的に高地トレを行う例も多い。

 メリットは心肺機能や持久力の向上など。酸素が薄い高地に順応するため、体内の赤血球が増えて酸素運搬能力が増す。その状態で平地で試合をすると、成績が向上するというわけだ。高地ケニアの陸上長距離選手が好成績を残すなど一般的に持久系の競技に適するといわれてきた。しかし、近年では競泳のスプリント種目など瞬発系でも効果があることが分かっている。

 通常とは違う環境でトレーニングすることから体調悪化や故障のリスクなどもあり、慎重な計画を立てるとともに体調変化にも注視する必要がある。期間や試合地に降りる時期による効果の違いなど、データを数多く集めることも重要。また、最近では平地でも高地と同様の効果を得ることができる低酸素室でのトレーニングも注目されている。

 ◆国内外の高地トレーニング場 米コロラド州のボルダー、ニューメキシコ州のアルバカーキ、中国の昆明、スイスのサンモリッツなどが有名。競泳は米国ではアリゾナ州フラッグスタッフ、欧州ではスペインのグラナダなどで高地合宿を行うことが多い。国内は山形・蔵王坊平と岐阜・飛騨御嶽高原がナショナルトレーニングセンターの強化拠点施設として指定されている。他にも長野の霧ケ峰高原、菅平高原、新潟の妙高高原などが高地合宿地として利用されている。

 ◆東御市(とうみし) 2004年(平16)に東部町と北御牧村が合併して誕生した長野県東部の市。小諸市、上田市、群馬県嬬恋村などに隣接する。人口約3万人。主な産業は農業、近年は特産のぶどうを生かしたワイン造りも盛ん。真田丸ゆかりの「海野宿」や大相撲史上最強といわれる雷電為右衛門の生家などを訪れる観光客も多い。サッカー北信越リーグ1部のアルティスタ東御のホーム。花岡利夫市長は3期目。