平昌五輪の熱戦も、終盤戦に入る。夏季と冬季の違いがあるとはいえ、20年東京大会直前の「五輪」は、2年後に向けて実践準備する最後の大会。東京大会組織委員会や東京都も大会を活用した「準備」を進めている。7つの外国語大学で構成する全国外大連合も、希望する学生100人を外国語ボランティアとして平昌に派遣。現地で働く学生たちに、東京への思い、課題を聞いた。【三須一紀、村上幸将、荻島弘一】


宿舎となった延世大でボランティア活動について語った本郷素直さん(左)と村田真悠さん(撮影・村上幸将)
宿舎となった延世大でボランティア活動について語った本郷素直さん(左)と村田真悠さん(撮影・村上幸将)

 雪の競技が行われる平昌やスケート会場の江陵で学生たちはボランティアをしている。身を切るような寒さに耐えながら、学生たちは肌で感じたことを東京大会につなげたいと日々、仕事を続けている。

 神田外大英米語学科2年の本郷素直さんと国際コミュニケーション学科2年の村田真悠さんは、平昌で都市ボランティアを務める。本郷さんは英語、村田さんは英語とハングルが堪能だが、現場で最も痛感させられるのが「言葉の壁」だ。語学が得意なボランティアの多くは選手やメディアの対応に回る。観客対応中心の都市ボランティアにはハングル以外不得手な韓国人が多く、海外からの観客と会話が出来ずに問題が生じているという。

 本郷さんは「観客の対応で多いのは、遺失物の問い合わせ。紙で申告してもらうのですが、ロシア人の観客は英語も通じない。イライラして怒り口調になりました」と振り返る。9日の開会式後にバスの運行が遅れ、駅に着いた段階で「電車がない」と言われた観客が騒動を起こした。村田さんは「多言語に対応できる通訳ボランティアが観客のところにいない。タクシー乗り場に配置するなど工夫すれば、交通問題の改善につながる」と提言した。

 江陵で活動する同大英米語学科2年の蛇沼香野さんも、言葉の問題を指摘。開幕前、組織委員会主催の研修はハングルで行われた。蛇沼さんはハングルも大まかに理解できるが、理解できないボランティアに説明が伝わらないケースもあったという。「東京五輪で海外からボランティアを募集するなら、第一に日本語をある程度できる人という条件を付ければ説明も伝わるし、数が多い日本人観客の対応も出来る」と話した。

 酷寒の平昌五輪とは対照的に、真夏の東京大会は高温多湿による酷暑が懸念される。3人は、熱中症などで体調を崩す観客が出ることも考慮し、都市ボランティアにも言語に堪能な人材を配置すべきと強調した。蛇沼さんは「倒れた人を発見し救護室に運ぶことも多いと思いますが、言語が分からず対処の仕方を間違うと大変なことになりかねない」と警鐘を鳴らす。本郷さんも「真夏の東京は40度近くまで気温が上がる。観戦者が倒れてもおかしくない。選手だけではなく観客も人間。最低限のサポートは必要」と訴えた。

 全国外大連合の活動記録は、東京大会組織委員会にリポートとして上がる予定だ。本郷さんは「今、高校生以下の子たちが東京では学生ボランティアの主役になる。彼らには事前に一定の感覚を身に付けてもらうべき」と、今回の経験が下の世代の育成につながることを願った。

 大学2年で平昌五輪のボランティアに参加した学生は、東京大会が開催される20年に卒業するが、本郷さんは大学を1年休学して香港で働き、ボランティアとして再び関わることを希望している。村田さんと蛇沼さんも、卒業しても東京大会に関わりたいと考えている。こうした学生たちの経験、思いを生かすことが、東京五輪・パラリンピック成功の近道になることは間違いない。


 ◆全国外大連合 大学名に「外国語」「外語」という言葉を含む全国7つの国公私立大(関西外大、神田外大、京都外大、神戸市外大、東京外大、長崎外大、名古屋外大)によって14年6月に結成された。「国際社会の一員として、世界に貢献しうる人材を育成すること」を共通の理念として提携。「通訳ボランティア育成プログラム」は活動の1つで、15年8月にスタートした。


江陵スピードスケート競技場で通訳ボランティアを行う蛇沼香野さん(撮影・村上幸将)
江陵スピードスケート競技場で通訳ボランティアを行う蛇沼香野さん(撮影・村上幸将)

<東アジアの平和も伝えて>

 全国外大連合の学生ボランティア派遣をまとめる神田外大・通訳ボランティア推進室の朴ジョンヨン室長(38=顔写真)は「平昌から東京へ、今回の経験を今後につなげてほしい」と、学生たちの成長に期待する。

 全国外大連合が通訳ボランティアセミナーを始めたのは15年。それ以前から通訳ボランティアの育成や国内での国際スポーツ大会への派遣をしていた朴室長を中心に、外大連合として育成に取り組んだ。17年2月の札幌冬季アジア大会には7大学から86人が参加。平昌大会は、それに続く外大連合としての国際的スポーツ大会への支援になる。

 外大連合が平昌大会組織委員会とボランティア協力に関する協定を締結したのは16年6月。昨年9月には平昌大会組織委員会も後援して第5回のセミナーが行われ、応募した280人の中から各大学が選考した100人が派遣された。決して東京大会だけを意識したものではないが、朴室長は「学生も東京大会でボランティアをしたいという思いが強い。4年生が意外と少なくて、1年生が多いんですよ」と説明した。

 東京大会組織委員会も、国際大会でのボランティア経験のある人材を求めている。今回の学生らは、2年後に「ボランティア・リーダー」として活躍している可能性も大きい。「日韓関係や北朝鮮問題、平昌から東京へ続くのは。東アジアの平和を考えるにもいい機会。それを後輩に、子どもに、孫に伝えていってほしい。それがボランティアのレガシーです」と朴室長。100人の学生は2年後の東京に向けて、平昌で貴重な経験を積んでいる。

(2018年2月21日付本紙掲載)