ピョンチャンオリンピック(平昌五輪)が、17日間にわたる熱戦を繰り広げて、2月25日に閉幕した。20年東京五輪を前にして、同じアジア、時差がない韓国での開催。東京にとって参考にすべき点があった。平昌取材班が、現地で感じた体験を基にして、2回にわたって検証する。1回目は、五輪のメインである競技面をクローズアップ。平昌五輪での教訓は「そだねー」と、うなずけることが多い。

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 平昌五輪でも海外勢の「合わせる」うまさが目についた。スピードスケートでは、W杯前半戦で日本勢に押され気味だったオランダが個人7種目で金を獲得。今回も強さを印象づけた。日本はW杯前半戦の成績で一部内定を与える選考方法だったが、オランダは年末の国内選考会で選手が決まる。長い期間好調を維持するよりも、重要なレースにピンポイントで調子のピークを合わせるやり方が浸透しており、それがここ一番での勝負強さにつながっているとも考えられる。

 東京五輪は日本にとって地の利などのプラス面も多いが、従来の五輪と調整方法が異なる難しさもある。開催国として出場枠を与えられる競技、予選に出場しないケースも多い。選手選考においては、公平であることは大前提だが、いつ、どのような形で選手に内定を与えるのかも、パフォーマンスに直結する問題だと思った。【スピードスケート担当・奥山将志】


女子1000メートルで銅メダルを獲得した小平(右)と金メダルのテルモルス(オランダ)
女子1000メートルで銅メダルを獲得した小平(右)と金メダルのテルモルス(オランダ)

 アイスホッケー女子で開幕20日前に結成された南北合同チームのコリア。国際オリンピック委員会(IOC)が強調した政治面はさておき、競技面で不公平があった。最大の問題は選手登録数だ。

 選手は1カ国23人まで。だがコリアは韓国23人、北朝鮮12人の合計35人になった。試合出場は他国と同じ22人だから、コリアが5戦全敗だったから、といって見過ごせる問題ではない。

 東京五輪でコリアが結成されるとする。例えば、女子サッカーは両国とも強豪。選手数が多いと、起用の幅が広がり、過密日程の乗り越え方にメリットが生まれる。また極端に言えば“浮いた”選手が、試合終了間際に相手のエースにけがをさせて出場停止になっても、チームへの影響は少ない。相手を負傷させれば、それが意図的でなくても、物議を醸すことは必至。コリアを結成するにしても、選手数は他国と同じ、公平にすべきだ。【フィギュアスケート、カーリング、アイスホッケー担当・益田一弘】


アイスホッケー女子 スイスの選手と競り合う韓国と北朝鮮による合同チーム「コリア」の選手
アイスホッケー女子 スイスの選手と競り合う韓国と北朝鮮による合同チーム「コリア」の選手

 開会式でのKポップを使った入場行進は各国選手がとても楽しそうだった(最高潮に盛り上がったのは、やはり「江南スタイル」)。閉会式でのダンスボーカルグループEXO、女性アーティストCLの登場も同様に盛り上がった。文化、言語の差異を問わずに楽しめるダンスミュージックは、東京でもうまく利用できるのではないだろうか。開会式の演出は70億円と低予算に抑えたからかコンパクト。2時間程度に短縮され、選手への負担も少なかった。韓国の歴史と文化が、伝統的な手法と最先端のテクノロジー両方を使い美しく表現されていたが、何を伝えたいのか理解できない場面も。観客全員に配布された太鼓は、どこでどう使えばいいのか分からなかった。20年の開閉会式で日本文化をどこまで押し出すのかまだ決まっていないが、観客が置き去りにならない、誰もが楽しめる工夫が求められる。【フィギュアスケート担当・高場泉穂】


2月9日、平昌五輪開会式のアトラクション
2月9日、平昌五輪開会式のアトラクション

 平昌五輪開幕の6日前、開会式会場横で氷点下12度を体感した。できたてのカップラーメンに箸を入れて持ち上げると、わずか1分で針金のようにカチカチに凍った麺に驚いた。スピードスケートの小平奈緒(相沢病院)は寒さなどでコンディションへ影響が懸念されるため、開会式不参加を条件に主将を引き受けた。

 当日の2月9日は氷点下5度前後に上がったが、その判断は正しかったと思う。前例に縛られず、日本オリンピック委員会(JOC)は「アスリートファースト」で意向を尊重した。東京五輪は20年7月24日から8月9日までの17日間。次に待つ懸念は「酷暑」だ。

 都は路面の特殊舗装や、霧状の水をまくミストシャワーの設置など柔軟に対応する予定だ。設備の充実は大前提として、日本特有の高温多湿な暑さの危険性と対策を、事前に各国に提示する必要性を感じる。ネガティブな案件だが、選手を大切にする「おもてなし」こそが、大会成功への重要事項と思った。【フィギュアスケート、ショートトラック担当・松本航】


 「時差なし」五輪は日本に有利になるはずだった。ただ、担当したジャンプは、男女ともに競技開始時間は午後9時30分からと異例だった。そのため、女子選手は直前のW杯が中止になっても日本に戻らず、欧州に残り、欧州時間に合わせ調整した。平昌入り後も夜更かしを続け、起床も普段より遅らせていた。「無理な生活」を強いられたのは否めず、時差なしの恩恵はなかった。

 観客にとっても厳しい五輪だった。10日の男子ノーマルヒルが終わったのは午前0時19分。そこからソウルなど最寄りの都市まで約2時間。表彰式など観戦したらホテルに着くには早朝になる。夢を与えるはずの子どもたちの観戦は、厳しいと言わざるをえない。

 欧米時間に合わせてのものだというが、どこにアスリートファーストがあるのか? 20年東京五輪のスケジュールはまだ発表されてはいないが、開催国時間に合わせて行うことが選手、ファンのためになるのではないだろうか。【ジャンプ、複合担当・松末守司】


 自然環境下でのスポーツゆえ仕方ない部分ではあるが日程変更に関する影響は選手を泣かせた。

 顕著に結果に表れたのはスノーボード男女パラレル大回転。2月22日予定の予選は、悪天候予報で24日となり、予選と決勝トーナメントは同日開催となった。過密スケジュールとなった結果、決勝トーナメントは試合形式を変更。本来なら赤コースと青コースの2本を走って、合計タイムで競うはずだったが、予選上位者からコースを選択する1本勝負に。雪質などから赤コースの勝率が異常に高く、コースが勝負を大きく分けた。他にもスノーボード女子スロープスタイルも悪天候で予選が中止。出場者全員による決勝は、通常より1回少ない2回の演技となり、選手を悩ませた。

 東京五輪でもヨットやカヌーなど自然を相手にする競技では天候による日程変更を余儀なくされる可能性がある。綿密に予備日を用意するなどの対策が必要となりそうだ。【スノーボード、フリースタイルスキー担当・上田悠太】


<悪天候への対応を注視>

 2020東京大会組織委員会は、直近五輪の平昌大会に学ぶ。組織委ではIOCによる「オブザーバープログラム」に100人以上の職員を派遣。競技、輸送、警備など担当に分かれて実地研修を積んできた。東京大会にどう生かすかの詳細は「プログラムの報告を精査してから」(武藤敏郎事務総長)だが、すでに多くの課題があがる。

 組織委が最も注視していたのは、悪天候への対応。寒さや雪など天候の悪化による競技日程など運営側の対応は、猛暑や豪雨などが予想される東京大会でも参考になる。武藤事務総長は「余裕を持って予備日を設けるなど、競技日程から考える必要がある」と話し、組織委の遠藤利明副会長も暑さを懸念し「(マラソンの)5、6時スタートはありではないか」と私見を明かした。競技日程の発表は今年末の予定、そこに平昌大会の経験も生かされる。【荻島弘一】