ロシアから東京へ-。20年東京五輪世代が、サッカーW杯ロシア大会で輝いた。フランスの優勝で幕を閉じた大会では同国代表の19歳FWエムバペが4ゴールの活躍、国際サッカー連盟(FIFA)ヤングプレーヤー賞に輝いた。2年後に23歳以下という五輪参加資格を満たす21歳以下の今大会登録選手は31人。世界最高の舞台を沸かせたフレッシュなプレーヤーが、日本で見られるかもしれない。


 多くの競技にとって最高の舞台は五輪だが、サッカーは違う。世界一決定戦は4年に1度、五輪中間年に行われるW杯。五輪はあくまでも「W杯に次ぐ」という位置づけだ。それでも、抜群の人気で観客数やテレビ視聴率では五輪競技の中でも圧倒的。東京五輪にとっても「重要競技」であることは間違いない。

 五輪サッカーの歴史は古い。1896年の第1回アテネ大会から非公式に行われ、1900年のパリ大会からは正式競技となった。もっとも、すでにプロ化していたサッカーと「アマチュア主義」の国際オリンピック委員会(IOC)は衝突。国際サッカー連盟(FIFA)はプロも参加する「世界一決定戦」を30年にW杯としてスタートした。

 プロが排除された五輪サッカーでは、長く「ステートアマ」の東欧諸国が上位を独占。五輪憲章から「アマチュア」の語句がなくなり、84年ロサンゼルス大会からはプロも出場可能になったが、FIFAはW杯の地位を守るため、五輪の出場資格を「W杯出場経験のない選手」とした。

 92年バルセロナ大会からは23歳以下に年齢を制限、96年アトランタ大会からは女子サッカー採用を条件に年齢無制限のオーバーエージ枠ができた。問題は、今も変わらないサッカー界の五輪軽視。特に欧州では同じ五輪中間年に欧州選手権があり、強豪クラブはシーズン前のチーム作りの時期に選手を出すことを拒む。

 FIFAは12年ロンドン大会前に各国協会にトップ選手の五輪出場を義務付けた。16年リオデジャネイロ大会ではオーバーエージ枠でネイマールを加えたブラジルがドイツを破って初優勝。これまで無関心だった欧州勢も、少しずつ五輪への意欲を高めている。各大陸予選は来年以降。欧州4など計16とW杯の半分しかない出場国数だが、今大会活躍した若手が、東京で見られるかもしれない。


キリアン・エムバペ(フランスFW)

19歳=パリサンジェルマン

<W杯7戦4得点0アシスト>

 圧倒的なスピードでピッチを疾走し、決勝のクロアチア戦ではゴールも決めて優勝に貢献。10代選手の決勝でのゴールは58年大会のペレ(ブラジル)以来で、FIFAが06年大会から贈るヤングプレーヤー賞にも文句なく選出された。

 決勝トーナメント1回戦のアルゼンチン戦では速さとうまさを見せつけて2ゴール、メッシとの「世代交代」を印象づけた。現在はパリサンジェルマンでプレーするが、今大会の活躍で欧州中の強豪クラブから熱い視線を集めている。

 母国に2度目の栄冠をもたらしたことを喜びながらも「これは、まだ序章にすぎない」。2年後の欧州選手権での優勝、4年後のW杯連覇、19歳の野望が尽きることはない。今大会で世界的にブレークしたスピードスターは東京五輪世代、2年後もまだ21歳だ。


フランシス・ウゾホ(ナイジェリアGK)

19歳=デポルティボ

<W杯3戦4失点>

 W杯ロシア大会で注目されたヤングプレーヤーの1人。今大会に登録されたGK96人中42人が30歳オーバー。平均年齢は28・6歳と経験が最も重要なポジションでレギュラーになるのが一番難しいとされる守護神の座を10代で獲得した。3試合すべてにフル出場した同選手に、ロア監督は「将来、チームの重要な選手になる」と大絶賛した。

 14歳の時にFWからGKに転向した異色の存在。わずか5年でW杯のピッチに君臨した。中でも1次リーグ第2戦のアイスランド戦では完封勝利を達成。終了間際に与えたPKの場面では、キッカーに近づきプレッシャーをかけて審判に注意されたが、ふてぶてしい態度で注意を聞き流すようなそぶりを見せるなど、すでに大物感を漂わせている。まだ細かいミスも多いが、順調に成長すれば欧州トップクラブの守護神になれる逸材だ。


ガブリエルジェズス(ブラジルFW)

21歳=マンチェスターC

<W杯5戦0得点1アシスト>

 左右どちらでも強烈なシュートを打て、175センチと上背はないが絶妙なポジショニングでのヘディングシュートも得意と、オールラウンダーなFWだ。21歳の若さで王国ブラジルの背番号「9」を託されている。W杯ロシア大会ではエースFWネイマールとともに国民から大きな期待を寄せられたが、無得点で大会を去ることになった。

 「体の一部を持っていかれたようだ」とW杯後に失意を語っていたが、今後もブラジルを背負って立つ選手なのは間違いない。19歳で挑んだ16年リオデジャネイロ五輪では母国を優勝に導き、大会後に現所属のマンチェスターCに移籍。すでに世界でもトップクラスのFWアグエロ(30=アルゼンチン)とレギュラー争いを繰り広げている。トップに君臨する33歳のロナルドと31歳のメッシに引導を渡す次期バロンドール候補と評されている。


マーカス・ラッシュフォード(イングランドFW)

20歳=マンチェスターC

<W杯6戦0得点0アシスト>

 センターフォワードと左サイドを主戦場とするドリブラータイプの選手で、爆発的なスピードを持ち、直線的なドリブルを好む。W杯では6試合に出場も、先発はわずか1試合と不本意な大会となった。敗れた準決勝のクロアチア戦後に自身のツイッターで「本当につらい。でも(W杯に)戻ってくるよ。これが未来へのスタートだ」と記した。

 所属クラブのマンチェスターUでも存在感を発揮できていない。16年2月25日に公式戦デビューとなった欧州リーグ・ミッティラン戦で2得点。リーグ戦初出場となった3日後のアーセナル戦でも2点を決め、世界に強烈なインパクトを残した。今年1月にFWサンチェス(チリ)の加入によりベンチスタートが増加するなど、近頃は伸び悩んでいるが、4年後のカタール大会で今大会得点王のケーンからレギュラーを奪える可能性もある器だ。


ロドリゴ・ベンタンクール(ウルグアイFW)

21歳=ユベントス

<W杯5戦0得点1アシスト>

 W杯では5試合すべてに先発出場と、すでに強豪ウルグアイのレギュラーとして定着している。昨季からセリエA王者ユベントスに加入。途中出場が多かったが移籍1年目で20試合(先発5試合)を経験。正確無比な長短のパスが持ち味。


アシュラフ・ハキミ(モロッコDF)

19歳=ドルトムント

<W杯3戦0得点0アシスト>

 Rマドリードの下部組織からトップチームに成り上がった右サイドバック。W杯では1分け2敗で1次リーグ敗退したが、3試合すべてにフル出場した。大会後に、日本代表MF香川が所属するドルトムントへ期限付き移籍。出場機会を求めて武者修行を選んだ。


ウスマヌ・デンベレ(フランスFW)

21歳=バルセロナ

<W杯4戦0得点0アシスト>

 1次リーグは3試合で2試合に先発したが、決勝トーナメントでは出場時間はわずか2分と、デシャン監督の評価を落とした。だが、17年夏にドルトムントから歴代4位の1億500万ユーロ(約137億円)で移籍するなど、潜在能力に疑いの余地はない。


ダニエル・アーザニ(オーストラリアFW)

19歳=メルボルン・シティー

<W杯3戦0得点0アシスト>

 両親はイラン人で7歳の時にオーストラリアのシドニーに移住。今大会の最年少選手で、同国史上初めて10代でW杯に出場した。3試合すべて途中出場で出場時間は計60分にとどまったが、ボールコントロール技術の高さと持ち味のスピードは披露。日本を苦しめそうなアタッカーだ。


ニコラ・ミレンコビッチ(セルビアDF)

20歳=フィオレンティナ

<W杯3戦0得点0アシスト>

 195センチ、90キロと平均身長186・7センチと屈強な選手たちの中でもチーム2番目に大きい。恵まれた体格を駆使した空中戦が武器で、セリエA初挑戦の昨季はフィオレンティナで16試合に出場し、14試合で先発起用されるなど、すでに実力が認められ始めている。


ブレール・エンボロ(スイスFW)

21歳=シャルケ

<W杯4戦0得点1アシスト>

 カメルーン出身で184センチ、86キロの強靱(きょうじん)なフィジカルと、爆発的なスピードを持つ。攻撃の切り札として3試合で途中出場。アシストしたコスタリカ戦では、相手と競りながら右クロスを中へ折り返し、ジュマイリのゴールをお膳立てした。


李承佑(韓国MF)

20歳=ベローナ

<W杯2戦0得点0アシスト>

 バルセロナの下部組織出身で「韓国のメッシ」と呼ばれる。20歳ながら韓国代表の背番号10をつけ、大きな期待を背負った。ただ、今大会は2戦合計の出場時間は計43分。W杯デビューを果たした初戦のスウェーデン戦では体格に勝る相手DFの強さに苦しんだが、ドリブルの切れ味が一級品であることは示した。


エドソン・アルバレス(メキシコDF)

20歳=アメリカ

<W杯4戦0得点0アシスト>

 初戦のドイツ戦こそ途中出場だったが、そこから決勝トーナメント1回戦のブラジル戦までの3試合ですべて右サイドバックとしてフル出場した。第3戦のスウェーデン戦ではミスキックが右手に当たり、オウンゴールを献上してしまった。


ユーリ・ティーレマンス(ベルギーMF)

21歳=モナコ

<W杯4戦0得点2アシスト>

 チーム最年少ながら1次リーグ最終戦と3位決定戦の対イングランド2試合に先発。ボランチとして攻守に動き回り、チームのアクセントになった。19歳で代表デビューし「ベルギーの至宝」と呼ばれる逸材には、将来のW杯初制覇の期待がかかる。


ムサ・ワゲ(セネガルDF)

19歳=オイペン

<W杯3戦1得点0アシスト>

 日本戦の後半26分に代表初ゴールを決めた攻撃的な右サイドバック。19歳263日でのゴールはアフリカ勢のW杯最年少得点記録となった。身体能力を生かした縦への突破は驚異的で、積極果敢な攻め上がりを見せた。その背後を日本に突かれるなど守備に課題は残すが、ビッグクラブに移籍する可能性は高い。


その他のW杯に出場した東京五輪世代
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