2020年東京五輪・パラリンピックの表彰式で金銀銅のメダルとともに手渡される「副賞」に、伝統工芸品の各団体が我こそはと名乗りを上げている。地域の伝統文化を世界にアピールできる絶好のチャンスを逃すまいと、大会組織委員会への売り込み、国会議員の議員連盟、各自治体の首長らへの要望合戦も激しくなっている。【三須一紀】


陶額で作った副賞の素案
陶額で作った副賞の素案

■イチオシは陶額

陶磁器業界はオールジャパンで一枚岩となり昨年、陳情活動を行う特別委員会を立ち上げた。陶磁器が副賞として指名を受ければ、美濃焼(岐阜)、九谷焼(石川)、有田焼(佐賀)など全国30地域以上にある産地が一体となり、無償で制作し、組織委に提供する。

過去大会同様、メダリストが片手で持てるサイズが望ましい。これまで折り鶴やペーパーウエート(文鎮)、浮世絵メダルなどを試作したが、現在の一押しは「陶額」だ。

例えば、日本を象徴する富士山と桜を陶磁器に絵付けする。置物としても飾れ、海外の選手が持ち帰るのに喜ばれる物にしたいという。サイズはA5を想定している。

同業界の売りはやはり、全国の産地が一体になったことだ。岐阜県多治見市の食器販売「前畑」の社長で特別委の坂崎義雄会長は「縄文土器から続く日本最古の業界だから」と、一枚岩につながった理由を語った。ただ古いだけではなく「食べる、飲む、花を飾るなど、全て土器から始まった」という日本文化の源流を世界にアピールしたい考えだ。

もし副賞に指名されれば、各地のコラボレーション品を生産する考え。東日本大震災による東京電力福島第1原発事故で避難を余儀なくされた浪江町の大堀相馬焼も生産地の1つ。全くの未定だが、復興五輪の名のもと、相馬焼のエッセンスを加味することも検討材料の1つになる。

岐阜県陶磁器工業協同組合連合会の松原朝男副理事長は「日本の伝統文化の粋を集めた陶磁器を世界のアスリートにお渡ししたい。和食器の風合いは欧米はもちろん、中韓とも違う。安土桃山時代に生まれたデザインや形がバラエティーに富んで、日本らしさになった」と、売り込む。

明日22日には、産地連合首長連合を発足させる。同日、設立総会を開催し、その後、組織委に要望活動を行う。岐阜、愛知、三重、滋賀、石川、京都、佐賀、長崎の8知事も名を連ねる。


陶額で作った副賞の素案を手に、採用へ意気込む岐陶工連の松原朝男副理事長(左)と日陶商連の小栗隆幸専務理事(撮影・三須一紀)
陶額で作った副賞の素案を手に、採用へ意気込む岐陶工連の松原朝男副理事長(左)と日陶商連の小栗隆幸専務理事(撮影・三須一紀)

■原点立ち返るブーケ

花卉(かき)業界は五輪の原点に立ち返り「ビクトリーブーケ」を提案している。メダルセレモニーにその名の通り「花を添える」ブーケは、言わずもがな写真映えには持ってこいだ。

陳情活動を推進する日本花卉振興協議会の担当者によると、陶磁器同様、組織委への無償提供を考えている。生ものである花はただ品物を搬入すれば良いわけではない。東京大会では猛暑が予測されるため冷蔵保存、配送、スタッフ面も業界が面倒を見る。

しかし、花卉業界にはうれしくない情報がある。夏季では12年ロンドン大会、冬季では14年ソチ大会まで、副賞はブーケを中心とした花や植物だった。それが、16年リオデジャネイロ大会では大会エンブレムをかたどったメダル置きに変わった。

国際オリンピック委員会の副賞の考え方が、選手がギフトとして本国に持ち帰れる物という方向にシフトしているという。では、水分を抜いたプリザーブドフラワーはどうかと尋ねると、単純に見積もってもコストが3倍に増えるといい、無償提供をするにはハードルが高い。

もし副賞に採用されなかった場合でも、文化事業として協力したい思いがある。1964年(昭39)の東京五輪では選手村で生け花を教える事業があったという。その他にも会場や選手村の装飾も考え得るが「ブーケと違い、毎日のメンテナンスが必要なので全て無償というのは厳しい…」と語った。

他の業界では、04年アテネ五輪の副賞だったオリーブの冠や、真珠、織物、和紙で作る表彰状などさまざまな伝統工芸品が名乗りを上げた。副賞に採用されれば、五輪・パラの約1カ月間、メダルセレモニーで毎日のようにテレビ画面に映し出される。日本の工芸品が世界に波及していく大チャンスとなる。


1984年ロサンゼルス五輪の野球で金メダルを獲得した日本チーム。表彰台でブーケを掲げる
1984年ロサンゼルス五輪の野球で金メダルを獲得した日本チーム。表彰台でブーケを掲げる

経済産業相が指定する伝統的工芸品は現在、232点の品目数がある。伝統的工芸品産業振興協会(東京・青山)はこれらの産地に対し、20年東京五輪へ、どのように参画したいかアンケートを取った。主な項目はメダリスト副賞、表彰式、選手村展示、記念品などで希望を取った。回答結果を今夏、組織委に提出。組織委はこれをもとに、どの工芸品を大会に採用するかを検討中だ。

伝統的工芸品の要件は、100年以上継続しているもの、主に日常生活に使われるもの、製造過程の主要部分が手工業的、伝統的技術・原材料で製造されるもの、一定の地域で産地形成されていることなどがある。都道府県別で見ると東京都と京都府が最も多く17点。次いで新潟県、沖縄県が16点。

◆業種別品目数と主な工芸品

織物(38) 西陣織、博多織

染色品(12) 東京染小紋、加賀友禅

その他繊維品(4) 伊賀くみひも

陶磁器(32) 信楽焼、唐津焼、波佐見焼

漆器(23) 津軽塗、木曽漆器、輪島塗

土木品・竹工品(32) 仙台たんす、別府竹細工

金工品(16) 南部鉄器、高岡銅器

仏壇・仏具(17) 山形仏壇、尾張仏具

和紙(9) 越中和紙、因州和紙

文具(10) 雄勝硯(すずり)、熊野筆

石工品(4) 出雲石燈ろう

貴石細工(2)甲州水晶貴石細工

人形・こけし(8) 博多人形

その他工芸品(22) 天童将棋駒、長崎べっ甲

工芸材料・工芸用具(3) 金沢箔(はく)


◆メダリスト副賞アラカルト 五輪でビクトリーブーケが贈られるようになったのは84年ロサンゼルス五輪といわれている。98年長野冬季五輪では長野産アルストロメリア(百合水仙)が使われ、聖火台をイメージしたブーケが作られた。

00年シドニー五輪ではカンガルーの前足のような花を咲かせるカンガルーポー、クラスペディア(キク科)、オオニソガラム(ヒヤシンス科)などを使った。04年アテネ五輪の副賞ではオリーブの冠がメインになったが、オリーブの葉やガーベラのブーケも贈られた。

08年北京五輪のブーケはバラを中心に中国らしい赤でまとめた。12年ロンドン五輪では国産のピンク、オレンジ、黄色、黄緑のバラにラベンダー、ローズマリー、小麦、ミントを円形にまとめた。

16年リオデジャネイロ五輪から生花ではなくメダル置きに。18年平昌冬季五輪でも平昌の山並みをモチーフにしたオブジェだった。