新しい元号は令和であります-。菅義偉官房長官が新元号を発表した約6時間後、卓球の張本智和(15=木下グループ)は海外遠征から帰国した成田空港でそれを目にした。「自分の名前が入っている」。来年、17歳で迎える東京五輪を皮切りに、令和18年(2036年)に33歳で迎える夏季五輪まで計5回の出場を視野に入れる少年にとって、縁起の良い新時代の知らせだった。

未来をしっかり見据えるように、トスしたボールに鋭い視線を向ける卓球男子張本智和(撮影・狩俣裕三)
未来をしっかり見据えるように、トスしたボールに鋭い視線を向ける卓球男子張本智和(撮影・狩俣裕三)

名前

4月1日、張本は「令和の怪物」と呼ばれる目標を自ら宣言した。


「令和には東京五輪があり、自分の現役時代は令和のうちに終える。平成を代表する(野球の)松坂(大輔)選手のように、自分も令和を代表する選手を目指したい」


名前が新元号に入っている事実を素直に「うれしい」と語る。中国出身の父宇さんによれば、平和を表す「和」を母凌さんとともに好み、そこに日本や中国でも知恵を表す「智」を付けて「智和」と名付けた。小学時代は学研の全国テストで1位を取ったこともある。両親の教育方針は文武両道で張本は今年、神奈川・日大高に入学した。

目下、東京五輪での金メダルが目標だが、卓球選手として令和で輝く「未来予想図」が既にイメージできていた。


「高校1、2年は東京五輪だけを見る。それが終わった時から高3にかけて、視野を広げて大学とか進路を考える重要な時になると思う」


五輪、世界選手権での金メダルは「できるだけ早く取れるのが一番です。少なくとも自分の競技人生が終わるまでに1度は達成したい」と話した。

4月の世界選手権個人戦で男子シングルス3連覇を成し遂げた馬竜(中国)のような圧倒的王者にも「なってみたい」と話す一方で、「本当に3連覇は信じられないこと。今の自分ではその力はないので、もっと強くなって、そこを目指したい」と高い壁にも逃げるつもりはない。

同大会でベスト16に終わり、プレー幅を広げる必要性を痛感した帰国後は、約1週間の完全休養を経て、課題であるフォアハンドのさらなる強化に取り組んでいる。「一番大事なのはフォアハンドをどこでも打てるようにすること。それ以外のサーブ、レシーブも、バックハンドの威力もさらに上げないといけない」と研究されてもさらにそれを超えようと努力を重ねる。


質問の1つ1つを丁寧に答える卓球男子張本智和
質問の1つ1つを丁寧に答える卓球男子張本智和

五輪

東京で始まる五輪人生についても明確なプランがある。


「33歳で迎える2036年のオリンピックまでは出られると思ってやっています。まだまだ動けると思う。その次の37歳(2040年)と33歳では動きに違いが出てくると思う」


世界各国の選手傾向も分析している。「アジアよりヨーロッパの方が競技人生が長い。ドイツのブンデスリーガなどリーグがしっかりしているからなのか。日本ではTリーグができたばかり」と語った。

そのTリーグ。昨年、発足したばかりだが、令和時代さらに日本卓球界を発展させたい思いがある。


「理想はプロ野球、サッカーのJリーグに近づきたい。卓球のワールドツアーもテレビ放映されるぐらい、すごい競技にしていきたい」


5月11日に行われたバスケットボールBリーグの決勝もニュースなどで見た。


「1万人以上入ったと聞いた。Tリーグも団体戦なんですけど、団結力がバスケの方が見ててすごいなと思いましたし、ゴールシーンでダンクとかが、格好いい。卓球ももっと格好いい技を見せて、格好いいと思ってもらえるようなスポーツになれたらいい」


卓球の魅力を伝えやすくする具体的な考え方を聞くと「バスケの場合、それぞれの得点シーンが比較的似ている。卓球だとみんなプレースタイルが違うので得点パターンが多い。個人技がもっと磨かれたり、1人1人の違う技が、格好いいと思われれば良いと思います」と語った。


世界卓球日本代表最終選考 最終日 男子シングルス決勝 張本智和対大島祐哉 スマッシュを決め、張本智和はハリバウワアーで喜びを爆発させる(2017年12月24日)
世界卓球日本代表最終選考 最終日 男子シングルス決勝 張本智和対大島祐哉 スマッシュを決め、張本智和はハリバウワアーで喜びを爆発させる(2017年12月24日)

家族

家族設計も五輪とリンクして計画している。結婚の時期は「五輪の開催年を考えると、25歳で迎えるロサンゼルスの後がちょうど良いと思っています」。欲しい子どもの人数は「自分が2人兄妹(きょうだい)なので、3人ぐらいほしいですね」と話した。

平成の終盤、既に卓球界の主役に躍り出た張本だが「東京五輪までは水谷(隼)さんという存在がいて、その次に自分がいる」と謙遜。一方で「東京五輪、もしくはその後には、日本卓球界といえば張本と言われるような時代にしたい」と日本のエースとしての覚悟を口にした。

気合を表現する、おなじみの「チョレイ!」にはくしくも新元号の「令」と同じ読みが入っている。偶然だが、まさしく日本卓球界「令和の申し子」となるのにふさわしい「縁」があることは間違いない。【三須一紀】


鋭い視線をボールに向ける卓球男子張本智和(撮影・狩俣裕三)
鋭い視線をボールに向ける卓球男子張本智和(撮影・狩俣裕三)

■張本智和の歴史

2003年(平成15) 6月27日 仙台市に生まれる

2005年(平成17) 両親がコーチを務める仙台ジュニアクラブで卓球を始める

2011年(平成23) 小1時、卓球全日本選手権バンビの部優勝

2016年(平成28)1月 同選手権小学6年間で6連覇を達成

同4月 日本オリンピック委員会(JOC)エリートアカデミー入校

同6月 ジャパンオープン荻村杯でU21種目史上最年少優勝

2017年(平成29)5月 世界選手権個人戦に初出場し、13歳で最年少8強入りを果たす

同8月 チェコオープンでワールドツアー最年少優勝記録を更新

2018年(平成30)1月 全日本選手権シングルスで最年少記録を更新する初優勝

同6月 ワールドツアー・ジャパンオープン荻村杯でリオ五輪シングルス金メダルの馬竜、同銀メダルの張継科(中国)を撃破し優勝

同12月 ワールドツアー・グランドファイナルで史上最年少優勝

2019年(平成31)1月 世界ランク3位に浮上、全日本選手権シングルスは3位

同3月 Tリーグ初代王者に

同4月 世界選手権個人戦シングルスで16強


得点を挙げてガッツポーズする張本美和(2018年11月4日)
得点を挙げてガッツポーズする張本美和(2018年11月4日)

妹・美和にも令和の「和」

妹美和(10=木下グループ)にも令和の「和」が入っている。現在、小学5年生。1月の全日本選手権ではカブの部(小4以下)で優勝。兄智和は初勝利が小6だった一般の部では3回戦まで進んだ。2月にはTリーグ最年少出場を果たし、令和では張本兄妹から目が離せない。