東京オリンピック(五輪)・パラリンピックは、東京都だけのものじゃない。開催都市だけでも、北海道、宮城、福島、茨城、埼玉、千葉、神奈川、静岡の計42会場。各国の事前合宿などで盛り上げるホスト都市は47都道府県すべてに及び、500市区町村を超える。福島・Jヴィレッジを皮切りに、3月25日から全国を回る聖火リレー走路を含めると、さらに多くの自治体が関わる。コロナ禍で1年延期の大打撃を受けたのは、大都市だけではない。

受け入れ自治体では、感染対策で宿舎、練習会場を貸し切りに切り替えるなど追加費用は次々とかさみ、先が見通せない中で準備を続ける精神的負担も大きい。キャンプが実施できても、厳しい感染対策が求められ、企画していた大会前後の地域住民との交流会を断念せざるをえない苦渋の判断を迫られる自治体も出てきている。

今大会は205の国と地域が参加する予定。各国から多くのファンが来日するはずだ。だが、開催への苦肉の策として、無観客という可能性もある。日本は多様な自然、文化に恵まれ、交通手段も発達しており観光も大きな醍醐味(だいごみ)に違いない。観戦だけでなく、各地に足を延ばし、寺院や温泉巡り、和食グルメ。時には浴衣などの和装でブラブラ。食や文化に触れてもらうチャンスが減少することは、受け入れ側にもマイナス材料だ。

私は12年ロンドン、16年リオデジャネイロ五輪を現地で取材した。ロンドン五輪は試合会場が分散していた女子サッカー担当だったため、各都市を転々とした。工業都市コベントリーは第2次世界大戦の大空襲から復興した町だと聞き、勝手に親近感を抱いた。ウェールズのカーディフは白い建物が並ぶきれいな街並みの至るところにアーケード街があり、おしゃれなカフェ、雑貨やパン店などを堪能した思い出も残る。

リオ五輪は治安の関係もあって会場と宿泊地のメディアバス移動ばかりだったが、打ち上げの外食で、カクテル「カイピリーニャ」の味を知った。サトウキビが原料のカシャーサにライムなどを搾る美酒。他の国際大会でもスウェーデンでトナカイを食べ、ポルトガルではトマト味の魚介鍋「カタプラーナ」に“恋”をした。

無観客でも世界各国に選手の生きざまは伝わるとは思う。だが、日本人も外国人も、競技観戦以外にも、人生を変えるような思い出が山積しているのが五輪本来の力。それが失われてしまう東京五輪であれば、寂しさは残る。【社会担当 鎌田直秀】