5、6、7人…。最後3回目の試技を終えた岩渕麗楽(20=バートン)に、次々とライバルたちが駆け寄った。ハグを繰り返した。メダルを獲得したわけでも、技に成功したわけでもない。それでも果敢な挑戦は周囲の心を震わせた。賛辞に国境はなかった。

岩渕 すごくびっくりした。スタートに立った時点では私だけの挑戦と思っていたけど、終わってみたら、みんながあんなにもほめてくれたり、声を掛けてくれたりして、すごくうれしかった。

4位からの逆転金メダルを狙った3回目。斜め軸の後方3回転宙返りを繰り出した。縦3回転は女子では誰も挑戦したことのない超大技。岩渕自身、雪上では練習でもやったことがなかった。各国のコーチ陣や関係者が目を見開き、両手を上げて驚き、場内はどよめいた。成功したかと思われたが、着地後に尻もちをついた。

前回五輪に続く4位。涙に暮れたが、金メダルを獲得したガサー(オーストリア)は会見で「(試技前に)上で見ていて興奮した。彼女はこの競技の進化のためにやってくれた。私も含め、みんなが誇りに思っている」とたたえた。

前日の予選3回目で着地に失敗した際に左手甲を骨折。板をつかむ動作「グラブ」をするのにも激痛が走るなかで、果敢なチャレンジの基盤になったのが肉体強化だった。

4年前にメダルを逃したあと、サッカーの長友佑都や久保建英らのトレーナーとして知られる木場克己氏(56)の下でトレーニングを始めた。空中技を出すときの姿勢を保持するために体幹を鍛え、着地時の衝撃に耐えるべく、下半身を徹底的に鍛えてきた。ときには足袋をはいてトレーニングし、地面をつかむように立つ意識を高めたこともある。なかでも徹底的に鍛えたのがスノーボードやスケートボードなどの“横乗り系”競技で重視される腹斜筋。木場トレーナーは「真面目で賢く、このトレーニングがなぜ必要か理解できる。厳しいメニューも黙々とこなす」と評した。

4年後について「今ははっきり言えない」とするにとどめた岩渕の新技披露。今回は着地に失敗したものの、挑戦できたのは理論に裏打ちされたトレーニングを地道にこつこつと重ねてきたからだ。【奥岡幹浩】

〇…左手甲を骨折しながらも奮闘した岩渕の姿に、IOCトップの心も揺れ動かされた模様。日本チームの関係者を通じて「バッハ会長から」と、記念にスウォッチの腕時計が贈られた。ある意味、メダル以上のレアアイテム? 岩渕は「見てもらえていると思っていなくて…。こういうのをいただけてうれしい」と笑みを浮かべた。

スノーボードビッグエア女子決勝、3回目のエアを決める岩渕(撮影・垰建太)
スノーボードビッグエア女子決勝、3回目のエアを決める岩渕(撮影・垰建太)
スノーボードビッグエア女子決勝 3回目を終えスタンドに手を振る岩渕(撮影・垰建太)
スノーボードビッグエア女子決勝 3回目を終えスタンドに手を振る岩渕(撮影・垰建太)
スノーボード女子の岩渕(左)と木場トレーナー(木場トレーナー提供)
スノーボード女子の岩渕(左)と木場トレーナー(木場トレーナー提供)
トレーニングに励むスノーボード女子の岩渕と、指導する木場トレーナー(奥)(木場トレーナー提供)
トレーニングに励むスノーボード女子の岩渕と、指導する木場トレーナー(奥)(木場トレーナー提供)