北京五輪で経験した野球は、それまでとは全く別物だった。会場に着いたら前の試合が長引いていて、少し待たされ、ようやくグラウンドに入れると思ったら「30分後に試合開始です」と言われて、めちゃくちゃ慌てたこともあった。とりあえずストレッチをやって、5球ぐらい打撃練習をやって試合に臨んだ。

 プロ野球のペナントレースならば、試合前の準備時間は少なくとも1時間以上ある。それに慣れてしまっていたから、五輪の流れに合わせるのは大変だった。1会場でたくさんの試合をこなさなければいけないため、常に慌ただしかった。午前9時開始という試合もあった。朝4時に起きて準備した。これもプロ野球の試合では絶対にない経験。カナダ戦だったと思う。1-0で薄氷の勝利を収め、ホッとしたのを思い出す。

 タイブレークを経験したのも北京だった。米国戦だ。マウンドで「バントしてくるかな、打ってくるかな、どっちやろ?」と話してなんとなく入ってしまった。痛打され負けた苦い思いがある。事前にタイブレークの戦い方をシミュレーションしておくべきだった。いま思うと準備が足りない部分だった。

 五輪野球に戸惑い、もがいているうちに負けてしまったことが悔しさとして残る。東京五輪で復活する野球競技に出る選手は、そういうことがないように、さまざまな想定をしておいてほしい。北京の苦い経験が生かされれば、無駄ではなかったと思える。

 僕らには、野球・ソフトボールが五輪に正式競技として定着するよう尽力する義務があると思う。野球の魅力を国内外に発信し、その後の競技人口が増えるような東京五輪になってくれるとうれしい。協力できることはなんでもしたいと思っている。

(2016年10月26日東京本社版掲載)

【注】年齢、記録などは本紙掲載時。