今大会は五輪4大会目にして初めて、専門の担当競技を持たないで取材を行ってる。さまざまな物語を持つ外国選手たちの声も聞く機会がある。

6日にモーグル女子に出場したカイ・オーウェンス(17)の左目の上には生々しい裂傷が残っていた。1日の公式練習で大きく転倒。3日に行われた予選1回目の出場を見送るほどだったが、この日は迫力のある滑りを見せた。「脳は大丈夫だと確認できました。ここにいることに興奮してます」と声を弾ませる姿にタフだなと感じた。

中国は生まれた土地だ。ただ、両親の顔は知らない。中国内陸部の街なかに置き去りにされ、生後1年4カ月で、米国コロラドのオーウェンス夫妻の養子になった。「中国の雪に肌が触れたときは本当に特別な時間でした。生まれた場所で、五輪に出場できるなんて」。複雑な事情を抱えながら、それを正面から受け止めているように思えた。

「今大会で(生みの親を)探すつもりはありません。でも、コロナが落ち着いたらまた中国に家族と一緒にきて、見つけようとするかも」。その言動に人間としての強さを見た。

いま、ジャンプの高梨沙羅が混同団体でのスーツ違反の責任を背負い、心配は募る。ただ、彼女が判定後の2回目に自分の意志で飛んだこと、それ自体も人間として「強さ」だと思う。

オーウェンスは10位になったが、順位を超えたところで力を示した。それは高梨も同じ。メダルに縛られない、そんなアスリートの姿を残り期間も追いたい。

女子モーグル・フリースタイル決勝、滑走を終え笑顔を見せるカイ・オーエンス(撮影・垰建太)
女子モーグル・フリースタイル決勝、滑走を終え笑顔を見せるカイ・オーエンス(撮影・垰建太)