車いすラグビーの橋本勝也(16=東北ストーマーズ)が、激動の1年を駆け抜けた。競技歴2年の少年は今年、日本代表に初選出され、8月の世界選手権(シドニー)で金メダルメンバーになった。今月の日本選手権では、代表の先輩たちの厚い壁にはね返された。日本の将来を担うハイポインター(障害の軽い選手)として、東北地方に車いすラグビー文化を根付かせる原動力として期待される逸材は、貴重な経験を積んだ18年を終えて言った。「日本のエースに、世界一の選手になりたい」。

 

橋本は悔しさにまみれていた。今月14日から3日間、千葉市で行われた日本選手権に東北ストーマーズのエースとして臨んだが、目標の5位に届かず6位。1次リーグと順位決定戦の計5試合で2勝3敗の戦績以上に、先輩たちの壁の厚さを痛感した。池透暢(38=フリーダム)、島川慎一(43=ブリッツ)、池崎大輔(40=北海道ビッグディッパーズ)。日本が世界に誇る3人のハイポインターとマッチアップしたが、納得できるプレーはほとんどできなかった。

「コンタクトしたときのチェアポジション、スペース使い方、パス…。すべての面で通用しませんでした。反省を次の試合に生かすこともできなかった。まだまだ僕はダメな部分が多い。練習が足りません」。橋本はあどけなさが残る顔をこわばらせて言葉を絞り出した。ただ、競技を始めてまだ2年。昨年の日本選手権では出場はわずかな時間に限られていた。それから1年後、気後れすることなく先輩に挑んだこと自体が逸材の証しであり、大会では新人賞を獲得した。

長いリーチ、高い運動能力と日本トップクラスのスピード、若さを評価されて4月に代表合宿に初招集された。6月のカナダ杯で海外遠征に初参加し、国際舞台にデビュー。8月の世界選手権でも代表入りし、1次リーグの3試合に出場した。外国人選手の激しいタックルに何度も転倒してコートにたたきつけられたが、トライを狙う闘志だけは失わなかった。オーストラリアとの決勝戦で出番はなかったが、先輩たちが悲願の世界一に輝く瞬間をベンチでしっかり目に焼き付けた。

「世界選手権では体力不足を感じました。世界で戦うにはもっとスピードとパワーをつけないといけない。チームとしてはコミュニケーションの重要さを学びました」。橋本にとって貴重な経験の1つ1つが血となり、肉となった。日本代表のケビン・オアー監督(50=米国)は「彼は20年東京にインパクトを与える選手になれる」と期待するが、24年パリ、28年ロサンゼルス、さらにその先をにらんだ育成策でもある。

車いすラグビーに出会ったのは中学2年の時。それまでは引きこもりがちでスポーツの経験もほとんどなかったが、「激しいタックルがカッコよくて、すぐにやってみたいと思いました」。先天的に四肢に欠損があり、幼い頃から車いす生活を送ってきた少年の人生は、この2年で激変した。「来年の日本選手権では3人の先輩のうち、1人でも抜けるように頑張りたい。目標は日本のエース、世界一の選手ですから」。真っすぐ前を見据えた橋本の両目がキラキラと輝いた。【小堀泰男】

◆橋本勝也(はしもと・かつや)2002年(平14)5月9日、福島県三春町生まれ。先天的に四肢に欠損があり、車いすラグビーでは一番障害の軽い3・5クラス。三春中2年の時に競技に出会い、17年に発足した東北ストーマーズに加入し、プレーを始める。日本パラリンピアンズ協会主催の奨学金制度「ネクストパラアスリートスカラーシップ」18年第1期生に選出されている。現在、福島県立田村高1年生。

 

■三阪監督「ハイポインター 世界で戦える」

東北ストーマーズの監督兼選手、三阪洋行(37)は、2年前の冬をこう振り返った。「ラグ車に乗せてあげたら、水を得た魚のように生き生きと走り回っていましたね」。福島・郡山市でスポーツ教室に参加していた橋本をリオデジャネイロ・パラリンピック銅メダリストの庄子健(38)と訪ね、車いすラグビーと引き合わせてスカウトした。

04年アテネからパラリンピックに3大会連続出場し、日本代表アシスタントコーチでもある三阪は当時、東北に車いすラグビー文化を根付かせるため、クラブチームの立ち上げに動いていた。仙台市在住の庄子が関東のチームで練習しなければならない環境を改善するのも大きな目的だった。その途上で障がい者スポーツ関係者から橋本の存在を知らされたという。「日本にはなかなか現れなかった欠損障害のハイポインターで、世界で戦える選手が見つかったという印象でした」。

17年のチーム発足から庄子とともに橋本を指導する。わずか1年半で日本代表入りする成長ぶりに目を見張りつつ、三阪は言う。「彼には障害があっても、若くても、可能性を求めてチャレンジすれば世界を変えられるという発信力がある。ストーマーズにとっても大事な存在です」。東北に車いすラグビー文化を定着させる力を橋本に感じている。

 

◆車いすラグビー

<4対4> 四肢に障害のある選手が4対4で戦う。ラグビー、バスケット、バレー、アイスホッケーなどの要素が組み合わされていて、バスケットと同じサイズのコートで行われる。

<クラス分け> 選手は障害の程度でクラス分けされ、持ち点がつけられる。重い方の0・5点から軽い方の3・5点まで0・5点刻みに7段階で、4人の持ち点合計が8点以下でなければならない。3・0以上の選手をハイポインター、1・5以下の選手をローポインター、中間の選手をミドルポインターと呼ぶ。

<試合時間> 1ピリオド(P)8分の4P制。第1、3P終了後は2分、第2P終了後は5分のインターバルがある。

<前方へのパスOK> バレーボールと同じ大きさの専用球を使い、パスや選手が保持して相手側のトライラインまで運ばれる。前方へのパスも可能。ボールを保持した選手は10秒に1回ドリブルするか、パスしなければならない。トライが決まれば1点。