競技は問わず、今回のパリでは「判定」に対する話題が目立っている。紙一重、白熱の好勝負となると、とかくそこに目が向けられがちになる。
2日(日本時間3日)に行われたサッカー男子準々決勝、日本-スペイン戦での「細谷のつま先オフサイド」が、今も注目されている。ゴール前で相手選手を背負い、ボールを受けるためにブロック。その踏み込んだ右足の一部がわずかにオフサイドラインを突破していた。VAR判定を経てオフサイドとして取り消された。
クサビを受けてからゴールまでの一連のプレーがあまりに鮮やかだったため、誰もがモヤモヤした。ただ結論を言えば、ルール教本にもイラストで示されているオフサイドである。
元国際審判員の家本政明さんは、X(旧ツイッター)で「戻りオフサイド」だと解説している。「1mmでてたとか1mでてたとかは関係なく、オフサイドポジションから戻ってプレーしたことは事実なので、オフサイドのそもそもの精神がーとか、競技の精神がーとかは、この件に関してはまったく関係ありません。事実が全てです」(原文のまま)
今回のパリ五輪では、ワールドカップ(W杯)カタール大会で採用された「半自動オフサイドテクノロジー」が導入。スタジアムに設置されたカメラが選手の手足を瞬時に追跡し、オフサイドを探知する。それをもとにVARによる人の目も介して最終判定するため見逃しはない。現行のルールに則れば、紛れもないオフサイドだった。
ただ議論が収まらないのは「競技の精神性」からである。そもそも、なぜオフサイドは反則なのか? というところに立ち返る。
英国のパブリックスクールが発祥のサッカーは紳士のスポーツとして教育的な意味合いが大きかった。敵陣での待ち伏せは「卑怯な」非紳士的な行為とされ、それを取り締まるものだった。
あえて極端な言い方をすれば、細谷のプレーは非紳士的だったか? と問われれば「ノー」だ。“先鋭的”になったルールの前に不運だったと言うしかない。
判定を巡る論争は絶えない。1966年W杯決勝で、開催国イングランドFWジェフ・ハーストの決勝点が物議を醸した。延長戦でゴールバーをたたき、地面に落ちた。主審はゴールと判定したが、敗れたドイツは収まらない。ゴールラインを割っていたかどうか、半世紀過ぎても両国では見解が異なる。
そんな中、2013年にイングランドで初めてゴールラインテクノロジー(GLT)が初めて導入され、71歳になっていたハーストが招かれた。そこで「50年前にこのシステムがあったら、ラインを超えていたことが証明されたはずだ。変化は歓迎だ」と話している。
翻って、細谷の幻ゴールである。5日に出向いた取材先で、2007年U-17W杯で日本代表監督も務めている東京ヴェルディの城福浩監督はこう感想を口にした。
「オフサイドの解釈というのが論議される一つのきっかけになるような、インパクトのあるプレーだった」
現行ルール通りに判定されたことへの異論はない。ただ、未来に向けて“フットボールのありたき姿”を考える、そんな端緒となるディープなプレーだった。そしてこう言葉を重ねた。
「あれを見た時に今までの解釈でいいのか? というようにFIFAの審判委員会とかで、論議の場面の一つになってもおかしくないシーンじゃないかなと思います」
細谷の幻ゴールは、サッカー界に新たな変化をもたらした「ハーストのゴール」となるのか。あまりに物理的でオートマチックな時代のサッカーだからこそ、「揺り戻し」が気になっている。【佐藤隆志】



