ＡＫＢ４８の小嶋陽菜（２８）がＪＲＡの久保田貴士調教師（４８）と馬術競技をテーマに対談した。小嶋はフジテレビ系列の競馬情報番組「うまズキッ！」で予想を披露する競馬好きで、今年の安田記念では３連単１５万３５６０円の大万馬券を的中させている。一方、今年の宝塚記念を制したマリアライトを管理する久保田調教師は、明大時代に全日本学生馬術選手権で３連覇を達成した実力の持ち主。競馬と馬術の馬の違いは？　馬術の馬っていくらぐらいするの？　私でも馬術競技ってできるの？　小嶋が久保田調教師に根掘り葉掘り聞いた。「こじはるの馬術を学ぼう！」前編は、競馬の競走馬と馬術の競技馬の違いに迫ります。

競走馬はスピード追求　競技馬は演技能力が必要

• 小嶋　私は競馬が大好きでよく見るのですが、競走馬と馬術の馬はどう違うのですか？
• 久保田　馬術の馬は、乗馬馬（じょうばうま）とか競技馬と呼ばれます。まず競走馬はスピードを求めて品種改良されてきました。一方、競技馬はスピードではなく人を乗せて、どんな演技ができるのか、例えば障害物を跳び越えたりということを求めて改良されてきました。横に歩いてみたり、スキップのような動きをしてみたり、とか。競走馬と競技馬では馬へ求めるものが違います。スケートで例えると、スピードスケートとフィギュアスケートのような違いでしょうか。ただスピードスケートでもフィギュアスケートでも、スケートをするという基礎の部分は同じですよね。競走馬も競技馬も「馬に乗る」という基礎は同じですね。
• 小嶋　リオ五輪に出場する馬の年齢を見たのですが、競走馬よりも年齢が高いように思いました。若いとできないことがあるのですか？
• 久保田　欧州などでは、馬術の本格的な調教は４歳とか５歳から始まります。若いうちにやると、骨格などの体質がしっかりしていないので体がついて来ないんです。なので、五輪などの競技に出られる馬は８歳以上（※総合馬術と馬場馬術は８歳以上、障害馬術は９歳以上）と決まっているのです。
• 小嶋　調教師の仕事は競走馬と競技馬で違いはありますか？
• 久保田　競馬は２歳から始まります。競馬の調教師は体質を考慮しながらスピードを求めていくことになります。競技馬は種目によって違いますが、障害馬術だったら跳ぶタイミングを教える調教をします。数センチ単位で、踏み切りの場所をコントロールできるくらいまでやります。馬場馬術なら「収縮」と言われるのですが、スピードとは逆に馬をどれだけ「縮められるか」。馬をバネが縮んだ状態にして、いかに華麗な演技を見せられるかということになります。

競走馬は４～５歳、競技馬は10～16歳がピーク

• 小嶋　競技馬のピークって何歳くらいなのでしょうか？
• 久保田　競走馬のピークは４、５歳ですよね。それに比べて、競技馬は本格的な調教が始まるのが４歳とか５歳。そこから時間も要するので、だいたい１０歳くらいから１５、１６歳までがピークですかね。８歳から世界的な大会に出始めるとなると、馬の経験や体力のピークはそれくらいになりますね。
• 小嶋　４、５歳まで、何をやって過ごしているのですか？（笑い）
• 久保田　本格的な調教はできないですが、軽い調教はしていますよ。本格的な調教はやっちゃいけないので。その間も、育てるのにお金はかかるので結構大変な面もありますよ。
• 小嶋　馬にも、馬場馬術に向いている馬、障害馬術に向いている馬といった向き不向きがあったりするのですか？
• 久保田　障害馬術用の馬、馬場馬術用の馬がそれぞれ生産されることが多いですね。競走馬でもそうですが、競技馬でも血統はあります。有名な種牡馬とかいますよ。
• 小嶋　競走馬は馬体重が４００キロから５００キロがほとんどだと思いますが、競技馬はどうですか？
• 久保田　６００キロから７００キロが多いですかね。性格のおだやかな乗用馬の生産をしているところもありますよ。

セレクトセール並に高額！馬の値段と能力は比例

• 小嶋　７月中旬に行われた競馬のセレクトセールでは何億円もする馬が取引されました（※最高値は２億８０００万円）。競技馬のセリのようなものは行われるのですか？　やっぱり血統がいいと高いとか。想像がつかないんですけど…。
• 久保田　障害馬術で世界を目指す馬を買おうとすれば、それはもう数億円という額になります。
• 小嶋　競走馬と変わらないのですね。
• 久保田　ある程度、調教された馬を金銭トレードのような形で取引するとなると、１０億円という額になることもありますよ。
• 小嶋　１０億円ですか！？
• 久保田　競馬に例えるなら、Ｇ１を勝っているような馬を取引するレベルの話ですけどね。「この馬ならすぐ五輪に行けますよ」って馬ならばということですね。馬場馬術の馬でも数億円ですよ。
• 小嶋　値段と能力は比例するものですか？
• 久保田　そうですね。ただ、それを乗りこなす技術も必要になりますけどね。Ｆ１ドライバーが軽自動車に乗ってもレースは勝てないし、僕らがＦ１カーに乗ってもレースは勝てない。馬の能力と人の技術の両方が必要です。
• 小嶋　乗る馬は自分で選ぶものなのでしょうか？
• 久保田　いろいろなケースがありますね。自分で馬を探しに行くこともあるし、海外なら競技馬の馬主さんがいて指名されることもあります。自分で探す場合は、お金もかかります。試乗して相性を確認したりとか。

競走馬として活躍後、競技馬に転向するケースも

• 小嶋　馬術の場合は牡馬と牝馬でどちらが強いとかありますか？
• 久保田　あまり関係ありません。
• 小嶋　日本代表馬には去勢された、せん馬が多いですよね。
• 久保田　馬術競技は馬の集中力が要求されます。競馬の場合は、いい馬の血を次の世代に引き継ぐことが目的の１つでもあります。競技馬の場合は、せん馬にすると体質が強くなったり、牝馬がいた時にそっちに気を引かれず集中力が増したりします。せん馬が多いのはそういう理由もありますね。
• 小嶋　「ダービー馬はダービー馬から」と言われるように、競技馬も実績がある馬から実績馬が出やすいですか。
• 久保田　どういうトレーニングをされるか、ということのほうが大きいですかね。血統は大事なのは確かですが、資質があってもいいコーチやいいトレーナー（調教師）に出会わなければどんなに高い素質があっても磨かれません。
• 小嶋　競走馬として活躍した後に、競技馬に転向することもありますか？
• 久保田　あります。ただ、五輪に行くことだけが乗馬馬の未来ではありません。一般的な乗馬クラブで転用してもらって、末永くかわいがってもらえるような場所を僕らも探しながら調教師をしています。転向する馬は実際、多いです。世界的なレベルとなると厳しいこともありますが、８８年ソウル五輪、９２年バルセロナ五輪の障害飛越に出たミルキーウェイという馬がいます。「とべ！　おちこぼれ馬　ミルキーウェイ」という絵本にもなりました。ヤクモマサノリという馬も競走馬から競技馬に転向してソウル五輪に出ています。競馬だけじゃなく、馬術のほうで能力が開花する馬もいます。

競技馬の輸送は片道数百万円！伝染病予防も重要

• 小嶋　国際大会では馬を運ばなければならないと思うのですが、やはり飛行機で運ぶのですか？
• 久保田　そうですね。海外に行く時は飛行機です。コンテナに入れて運びます。１つのコンテナに３頭まで入るので、１コンテナでいくらっていう計算です。片道数百万円かかります。
• 小嶋　馬にとっては大きなストレスになりますよね。
• 久保田　そうだと思いますよ。五輪に行くとなると、人だけじゃなく馬も運ぶので、馬の体調管理も大切になります。
• 小嶋　馬がだめになったら大会に出場できないんですよね？
• 久保田　そうですね。あとは、馬の場合は伝染病の予防などもあります。それに引っかかると入国すらさせてもらえません。本当に特殊なスポーツだと思いますよ。（後編へつづく）