まさか…。男子100メートル予選で、桐生祥秀(25=日本生命)はフライングで失格となった。号砲の反応が0秒100未満は不正と判断されるフライングになるが、その数字は-0秒068(会場での速報値)。気持ちが前に出過ぎて、号砲が鳴る前にスタートを切ってしまった。国立競技場でのオリンピック(五輪)の予行演習は、人生2度目となるフライングで終わった。決勝はジャスティン・ガトリン(39=米国)が10秒24で制した。

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号砲の直後、次に待ち受ける運命を悟った。スタートやり直しの合図が鳴る。すでにライバルを大きく引き離していた桐生は、頭を抱えた。膝に手をつき、唇をかみしめた。想像した通り、フライングの判定が下された。五輪予行演習は走らずして、幕を閉じた。

レース後は、己を戒めた。「これは自分のミス。やってはいけない。今日は自分を責めて、また考えたい」。人間が音を聞いてから反応するまで最短で0秒100はかかるという医学的な根拠に基づき、号砲から0秒100未満の反応は反則。ただ、桐生の数字は-0秒068。「-」がついているということは、ピストルの音が鳴る前に、もう体は出ていたということになる。誤差ではなく、明白なフライング。「本当は叫びたいくらい」と必死に気持ちを整理した。

五輪本番を想定し、予選から全力で走るつもりだった。状態もよく、記録を狙える感触があった。「気持ちが高ぶりすぎた。それが抑えられなかった」。音を聞いて出る。その当たり前のことができなかった。

フライングでの失格は2度目。前回も海外の強豪が相手で、9秒台を狙える絶好調の状態だった。高揚する気持ちの中、どうスタートで折り合いをつけるか-。その課題を国立競技場で突き付けられた。

テスト大会だったのは不幸中の幸いだ。これが日本選手権や五輪本番だったら、笑えない。「何か1つでもプラスがないと次に進めない。改善点を考えながらやりたい」。この失敗は五輪で輝くための糧にする。【上田悠太】