東京オリンピック(五輪)・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長(83)が12日に辞任し、橋本聖子新会長(56)が18日に誕生するまで、候補者名が浮かんでは消えていった。「密室」に始まり「密室」で幕を閉じた7日間。新会長人事は組織委が不可欠だと言った「透明性の確保」には課題が残った。

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森氏の後継指名のような形になり、日本サッカー協会元会長、川淵三郎相談役(84)起用の会長人事が一夜にして白紙に戻ったのは12日午前。その時点で政界で有力候補として名前が挙がったのが橋本氏だった。

しかし、複数の関係者によると当初は会長就任を固辞。最も懸念していたのは14年のキス強要問題だった。まだ未成年の子どもも抱える身にとって問題が再燃しないかを心配していた。

そんな中、15日にJOC山下泰裕会長(63)の名前が急浮上。「橋本がダメなら山下しかいない」。19年に竹田恒和氏の後任として会長に就任。IOC委員にもなり、柔道五輪金メダリストとして知名度も高い。関係者の間で山下氏を推す声が強まった。関係者によると16日夜にも武藤氏が周囲に山下氏の候補案について話し、様子を探っていた。

政界には「橋本氏は引き受けない」との共通認識が生まれた。「政界の娘」と目する橋本氏の会長案に森氏が、未来ある若手に組織委会長という泥かぶり役を担わせるのも気の毒と感じていたという。

しかし「山下案」を聞いた官邸が懸念を示した。「女性じゃなくて良いのか」。森氏が女性蔑視発言で辞任していた経緯を軽視しては根本的な解決にならないと不安視した。そして17日、御手洗冨士夫名誉会長を座長とした候補者検討委員会の第2回会合が開かれ、橋本氏に一本化。日時、会場、委員名など全てが伏せられた。

2日間で合計約2時間40分の会議で一本化するのは「出来レース」ではとの指摘に、御手洗氏は「オープンで透明性の高い選び方だった」と回答。座長を除く委員7人中6人が橋本氏の名前を挙げたことを理由に挙げた。委員はそれぞれ1人以上の候補者を挙げる決まりになっていた。

御手洗氏は同日午後6時ごろ橋本氏に電話し、長い時間をかけて受諾してもらうよう説得も即受諾とはいかなかった。橋本氏から受諾の電話が入ったのは翌18日の午後0時30分ごろで、「サンドイッチを食べていた時に電話がかかってきた」と明かした。ただ関係者によると、橋本氏は17日夜の段階で内諾していた。

理事の中には「これでは8人が新会長を決めたと言われても仕方ない。検討委で2、3人候補を挙げ理事会で投票すべきだった」と指摘する人もいた。御手洗氏は「今日の理事会で理事は意見を言うチャンスはあった」と反論したが、最後まで密室人事の感が拭えなかった。【三須一紀】