【完全版】「苦しくなった時、前に行くのか、たじろぐのか」/栗山英樹―柳井正〈Ⅱ〉

異色の〝世界一対談〟が実現しました。WBC制覇に挑む侍ジャパン栗山英樹監督(61)が、代表のオフィシャルスーツパートナー「UNIQLO」を展開するファーストリテイリングの東京・有明本部を訪問。同社の柳井正代表取締役会長兼社長(74)語り合いました。アパレル業界と野球界。フィールドは異なりますが、ともに世界一を目指す2人の対談は1月11日に行われました。熱のこもった1時間を【大谷翔平論】【リーダー論】【組織論】の3部に編集。ノーカット版でお楽しみください。第2回はキーワードが続々のリーダー論。管理職の方、必読です。

プロ野球

▼【対談】栗山英樹―柳井正【21,072文字】▼

【Ⅰ大谷翔平論】

【Ⅱリーダー論】

【Ⅲ組織論】

◆栗山英樹(くりやま・ひでき)1961年(昭36)4月26日、東京都生まれ。創価高―東京学芸大。83年ドラフト外でヤクルト入団。プロ1年目秋に両打ち転向、3年目に打率3割。89年に外野手でゴールデングラブ賞。通算494試合、336安打、7本塁打、67打点、打率2割7分9厘。90年に引退後はスポーツキャスター、大学教授などを務め、12年から日本ハム監督。12年リーグ優勝、16年日本一。通算10シーズンで1410試合684勝672敗54分け、勝率5割4厘。21年11月、日本代表監督就任。現役時は174センチ、72キロ。右投げ両打ち。

◆柳井正(やない・ただし)1949年(昭24)2月7日、山口県生まれ。71年3月、早大政治経済学部卒業後、ジャスコ(現イオン)勤務を経て、72年に小郡商事(現ファーストリテイリング)入社。84年、「ユニクロ」1号店を広島市に出店、日本最大規模のカジュアルウエアチェーンへと発展させる。05年11月、ファーストリテイリングを持ち株会社へと移行し、傘下にユニクロ、ジーユー、セオリーなどを持つアパレル製造小売企業グループとなる。ユニクロはアジア大洋州、欧州、北米で2300以上の店舗を展開。


今回の会談にあたり、柳井氏の著書を読み込んできた栗山監督。リーダーシップの神髄を聞き出し、血肉としようとする意図が見え隠れする。聞き役に徹しながら、いつの間にかコアに迫っていく。

「全部、計画と準備ですよ」

栗山監督(以下、栗山)社長が言われている言葉で、例えば「9秒9は能力がないと走れないけど、組織として、みんなが協力しあうと、その可能性があるんだ」と。野球って、まさにそんな感じで。

柳井会長兼社長(以下、柳井)いや、そうですよ。だし、強いもんが勝てないでしょう。その瞬時、瞬時に、1人ずつの判断とか、監督の方針とか、正しい考え方で対応できたところが勝っていきますよね。それと、運が必要ですよね。運がないと勝てないでしょう。

栗山本当にそうです。この運というのは、例えば「お金もうけだけ考えている服は、人は買わないよ。人生とか、思いって伝わる」(と著書に書いてある)。すごく、なるほどなぁと思って。運ていうのは、1人1人が、なんていうんですかね。やり尽くしていったり、生き様が出るんですかね?

柳井僕は出るというふうに思います。あのね、野球でもそうですけど、偶然優勝なんかないですよね。

栗山ないです。ないです。

柳井全部、計画と準備ですよ。計画と準備やって、監督とか選手とかが絶対日本一になるんだ。あるいは、絶対、パ・リーグだったらパ・リーグで優勝するんだっていう意識が全部統一できて初めて優勝できるんじゃないかな、というふうに思いますけどね。だから、事業でも一緒のことですよ。

【東京・有明のユニクロ本部で 撮影:垰建太】

【東京・有明のユニクロ本部で 撮影:垰建太】

栗山あー。これは、僕も、僕自身がちょっとでも今年ダメかなあと、ちょっとでも心に浮かんだ瞬間にやられると思ってやってきたんですけど。社長の思いを言葉にして、社員の皆さんにがんがん伝えるべきなんですか?

柳井伝えるべきだと思う。

栗山はあ。

柳井というのは、ほとんどの人が、監督の方を向いてますよね。

栗山ああ、見てますね。

柳井監督が、ひょっとしたら負けるんじゃないか、みたいなこと、考えてたらダメでしょう(笑い)。俺たち、絶対勝たないといけないし、絶対勝つんだという。そういう運命だと思ってもらわないと、運命の方が避けて通るんじゃないですか。

「もの分かりのいい上司ってダメ」

栗山ああ。そうですねぇ。ああ。確かに、選手たちはすごく僕の動きとか、立ってる姿とか、すごく見てるんで。一瞬、こう、あれって思った瞬間に、全部やっぱり感じてますよね。

柳井そうですよね。で、監督が絶対勝ちたいんだというオーラみたいなものを出すと、これは僕もやらなきゃいけないな、というふうに思うんじゃないですか。選手も。だから、相乗効果ですよね、これ。そういうコミュニケーションが、僕は、絶対必要だと。で、そういうのがないと。僕は、一番ダメな上司ていうの言ってるんですよ。もの分かりのいい上司(笑い)。

栗山あああああああ。

柳井もの分かりのいい上司ってダメでしょう、これ。

栗山はい。(ダメな上司は)確かに「はい、はい、はい」と言ってくれちゃって。はい。

柳井じゃなくて「お前ね、こういうところはいいんだけど、ここを直さないといけないよ」とか、「こういう考え方じゃなしに、こういう考え方で過ごさないと、今の練習の成果が出ないよ」という、そういう人生の先輩として基本的なことを教えられる監督が一番いい監督だと思いますけどね。

栗山なるほど。もの分かりのいい上司。これ、最悪なんですね(笑い)。 柳井最悪(笑い)。

栗山なるほど。そうですね。

選手選考の真っ最中にセッティングされた対談。栗山監督は、判断のプロセスについて柳井氏に最適解を求める。孤高の人に見える柳井氏は、柔軟性に富んだ回答をする。一読すると抽象論だが、読み込むと深い。全体の要諦をなすブロックだ。

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子どもの頃、平和台球場で見た情景がプロ野球観戦の原点。大学卒業後は外務省に入り、旧ユーゴスラビアのセルビアやクロアチアの大使館に勤務したが、野球と縁遠い東欧で暮らしたことで、逆に野球熱が再燃。30歳を前に退職し、2006年6月、日刊スポーツ入社。
その夏、斎藤佑樹の早実を担当。いきなり甲子園優勝に立ち会うも、筆力、取材力及ばず優勝原稿を書かせてもらえなかった。それがバネになったわけではないが、2013年楽天日本一の原稿を書けたのは幸せだった。
野球一筋に、横浜、巨人、楽天、ロッテ、西武、アマチュアの担当を歴任。現在は侍ジャパンを担当しており、3月のWBCでは米・マイアミで世界一を見届けた。
好きなプロ野球選手は山本和範(カズ山本)。