【特別編集委員コラム】清原和博氏インタビュー 録音終了の直前に発した言葉/連載3

清原和博さんを単独でインタビューしました。次男の勝児君が甲子園でヒットを放ってから4日後、85歳で急逝した父洋文さんへの思いを2時間以上じっくりと語ってもらいました。

清原さんに話を聞いて、記事を書くのは9年ぶりになります。巨人時代、評論家時代に数多くの記事を書いてきましたが、ずいぶんと時間がたったものです。

インタビューを終えた夜は、久しぶりに徹夜をしました。メモをまとめ、録音を聞き直し、記事を書きました。

真夜中にパソコンのキーボードをたたきながら、3年前の夜に思いをはせました。あの日を思い出すと、目がさえるばかりでした。

プロ野球

◆飯島智則(いいじま・とものり)1969年(昭44)生まれ。横浜出身。93年に入社し、プロ野球の横浜(現DeNA)、巨人、大リーグ、NPBなどを担当した。著書「松井秀喜 メジャーにかがやく55番」「イップスは治る!」「イップスの乗り越え方」(企画構成)。日本イップス協会認定トレーナー、日本スポーツマンシップ協会認定コーチ、スポーツ医学検定2級。流通経大の「ジャーナリスト講座」で学生の指導もしている。

ふてくされていた時期

あの日…メモ帳で確認すると、2020年2月26日です。

清原さんと2人で食事に出かけました。銀座のすし屋のカウンターに並んで座り、ビールで乾杯した後に、「みぞれ酒」というのでしょうか、シャーベット状にした日本酒を飲みました。今は完全にアルコールを断っている清原さんですが、この頃は時々飲んでいたのです。

会話は盛り上がりました。私が清原番だった頃の失敗談、長嶋茂雄さんや松井秀喜さんの話、そして清原さんがPL学園時代の話もしてくれ、2人で大声で笑いながら飲んでいました。

巨人時代の清原氏と筆者。ファンの方からいただいたもの。右下に2000年2月27日とある

巨人時代の清原氏と筆者。ファンの方からいただいたもの。右下に2000年2月27日とある

雰囲気を壊してしまったのは私でした。

清原さんが何げなく「また飯島に記事を書いてもらい、日刊スポーツに取り上げてもらえる日がくるといいな」と言ったとき…ただ同意すればいいところで、私は余計なことを口にしました。言い訳にもなりませんが、すっかり酔っていたのです。

「うちの新聞なんか気にしなくていいですよ。オレ、2度と記事を書きたくないんです。書くチャンスもないだろうし、書く気もないです」

この頃、私は入社以来ずっと属していた編集局を外れ、営業部門で仕事をしていました。会社員に人事異動はつきものですが、納得できず、ふてくされていた時期でした。

話し相手が清原さんということも忘れ、会社や上司の不満を並べ立てました。普段は我慢しているつもりでしたが、1度口を開いたら、止まらなくなってしまったのです。

「腕を磨いておけよ」

清原さんは黙って聞いていました。そして私の不満が途切れると「トイレに行ってくる」と言って席を立ちました。しばらくして戻ると、静かな声で言いました。

「オレは会社のことは分からない。ただ、1つ言えることは…」

そう言って升酒に口をつけ、私にも飲むよう勧めました。

「腕を磨いておけよ。記事を書く腕を鈍らせるな。いいな。書く場がなくたって腕は磨けるだろう。プロ野球選手だって素振りをするんだからな」

私は相づちも打てず、ただ、姿勢を正して聞いていました。

2000年4月、横浜スタジアムで

2000年4月、横浜スタジアムで

「いつか、またオレの記事を書く日がきて、しょうもないのを書いたらな…本気でしばくぞ!」

最後の言葉に2人で笑い、そこからは再び笑いながら飲みました。

翌日から私は、毎日文章を書くことにしました。以来、1日も欠かしていません。

コラムを書いてパソコンに保存しただけのものもあれば、個人のSNSやブログにアップしたものもあります。

「異動したのに未練がましい」「何がやりたいんだ?」という嘲笑も耳にしましたが、聞こえない振りで続けました。

腕を磨く。それだけを考えて過ごしました。


インタビュー記事を書き終え、もう1度、録音を聞き直しました。最後まで再生すると、レコーダーを止める直前に清原さんが発した言葉が録れていました。

「やりがいを感じられる仕事に戻れてよかったな」

今回のインタビューが決まったのは、私が再び記事を書く立場に戻ったと報告した直後でした。清原さんはきっと、記者に戻った私をおもんぱかってくれたのでしょう。

腕を磨けているのかは分かりません。しかし、今回のインタビューは、私にとって人生の宝物です。

編集委員

飯島智則Tomonori iijima

Kanagawa

1969年(昭44)生まれ。横浜出身。
93年に入社し、プロ野球の横浜(現DeNA)、巨人、大リーグ、NPBなどを担当した。著書「松井秀喜 メジャーにかがやく55番」「イップスは治る!」「イップスの乗り越え方」(企画構成)。
日本イップス協会認定トレーナー、日本スポーツマンシップ協会認定コーチ、スポーツ医学検定2級。流通経大の「ジャーナリスト講座」で学生の指導もしている。