【出水慎一〈下〉】宇野昌磨の自責、宮原知子の努力、小塚崇彦の知識/名選手からの学び
日刊スポーツ・プレミアムでは毎週月曜に「氷現者」と題し、フィギュアスケートに関わる人物のルーツや思いに迫っています。
シリーズ第30弾は初となるトレーナーの登場で、出水慎一さん(45)のルーツをたどります。
全3回でお届けする最終回は、小塚崇彦さん、宮原知子さん、宇野昌磨さん、渡辺倫果(TOKIOインカラミ/法政大)との出会い、歩んできた道を振り返り、未来への思いを描きます。(敬称略)
フィギュア
不思議な巡り合わせ
2013年春、出水は34歳になっていた。
柔道整復師の国家資格を取得し、フィジカル、メディカルの両面で選手を支える準備が整った。
「何かが終わりかけた時に、お話をいただくことが多いんですよね。自分でも不思議なんです」
荒れていた中学2年生の3学期、母親や恩師の言葉が背中を押し、引っ越しのタイミングで受験勉強に向き合った。
大学受験で打ちひしがれていた時にスポーツの専門学校を知り、選手を支える存在として五輪を夢見た。
大手フィットネスクラブの面接で不採用を告げられ、のちに幅広い人生経験を積む就職先に巡り合った。
社会人として突っ走って立ち止まった時、親友の存在が新たな挑戦を後押ししてくれた。
小塚との出会いも、出水が新たな1歩を踏み出そうとした時期に巡ってきた。
中学時代のトラウマ
アメリカ中西部に位置するミシガン州デトロイト。南北を湖に挟まれた街で、少し前まで名前も知らなかった小塚との合宿が始まった。
部屋こそ別だが、同じホテルに宿泊して日々の食事をともにした。キッチンでの調理は小塚が担ってくれた。
「実は中学時代のトラウマがあったんです。それを彼が理解してくれました」
反抗期だった中学生のころ、夕ご飯は“食費制”だった。外を出歩くことが多く、両親が「ご飯はちゃんと食べなさい」とお小遣いをくれていた。時折、夕食の時間帯に自宅にいると、5歳下の妹は母の手作りの料理をほお張っている。一方で自身は街で食料を調達し、それを食べる生活だった。
「反抗期だから『家族で一緒に食べたい』と言うのが嫌だったんでしょうね。だから台所に立つと悲しくなって、料理をしなくなっていました。タカ(小塚)には感謝しています」
リンクでは学ぶことに徹した。
「股関節が痛くならないように、どうするか。それを作り上げていくことが最優先でした」
全てを記録に残した。滑りの強度と、体の張りを数字で記した。2カ月半の長期滞在で、痛みと付き合う術を見いだしていった。
「タカにはフィギュアスケートの競技そのものも教えてもらいました。『気合を入れたらダメなんですよ』と言われて『そうなんだ!』と驚きました(笑い)。同じ動きを繰り返す競技は初めてだったので、ちょっとしたズレを戻す感覚とか、それを養うことが重要ということも学びでした」
出会いから半年が過ぎた12月の全日本選手権。さいたまスーパーアリーナを舞台とした大一番で3位に食い込んだが、五輪代表の吉報は届かなかった。
「めちゃくちゃ悔しかったです。僕としても目の前に訪れたチャンスに『恵まれているな』と感謝して仕事をしていましたが『そんなに甘くない』とも学びました。彼の涙、それでも大ちゃん(高橋大輔)と互いをねぎらっている姿を見ながら『自分って本当に無力だな』と思っていました」
メンタル本などを読みあさり、さらにサポートを強固にできるように励んだ。
そうして女子のトップ選手と出会う機会が訪れた。
「夢ってかなうんだ」
宮原知子も、股関節に悩みを抱えていた。
ソチ五輪が終わり、4年後の平昌大会へと一斉に駆け出した2014~15年シーズン。コーチの浜田美栄を通じて、サポートの依頼があった。小塚に加えて、2015年春から宮原と本格的に向き合うようになった。
フィギュアスケート界に飛び込み、出水が心がけていることがあった。
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松本航Wataru Matsumoto
大学までラグビー部に所属。2013年10月に日刊スポーツ大阪本社へ入社。
プロ野球の阪神を2シーズン担当し、2015年11月から西日本の五輪競技やラグビーを担当。
2018年平昌冬季五輪(フィギュアスケートとショートトラック)、19年ラグビーW杯日本大会、21年東京五輪(マラソンなど札幌開催競技)を取材。
21年11月に東京本社へ異動し、フィギュアスケート、ラグビー、卓球、水泳などを担当。22年北京冬季五輪(フィギュアスケートやショートトラック)、23年ラグビーW杯フランス大会を取材。
身長は185センチ、体重は大学時代に届かなかった〝100キロの壁〟を突破。体形は激変したが、体脂肪率は計らないスタンス。
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