近代ボートでは、1枠のレーサーは勝って当たり前の風潮だ。まして、G1、SGならなおさら。しかし、選手をかばうわけではないが、インから勝つことは、そんなに簡単じゃない!と強く言いたい。責任感の強い選手ほど、ファンが知らない苦しみがある。先日の福岡SGメモリアルの優勝戦、馬場貴也が必死に逃げた姿を見て、余計にそう思った。
昨年の大村SGグランプリ。賞金トップの馬場はトライアル2nd1回戦を1枠で迎えた。しかし、インのスタートを遅れ、無理な先マイとなり、まさかの4着。直前のトライアル11Rで、インの山口剛がフライングを切り、絶対にFは切れない…という重圧が過剰にかかり、レバーを握り込むのが慎重になった。
「あの夜はしんどくなって、ボートレースがちょっと嫌いになった」という馬場のコメントを紙面に載せた。しかし、本当はそれだけではなかった。1走目が2枠、3枠なら、こんな重圧もなかったのに…という考えが頭をよぎり、さらに、口にヘルペスができるほど、精神的に追い込まれた。勝てなかったショック、ファンに対しての申し訳なさ。さまざまな感情が押し寄せ、体に異変が起きていた。
並の選手なら、この1戦で終わっていただろう。しかし、馬場はここからが立派だった。絶望的な感情を何とか整理し、青白い顔でトライアルを勝ち抜き、優勝戦で2着に入った。あの6コースから鬼気迫るターンで追い上げた姿を見て、馬場の実力を再認識したファンは多かったはずだ。感情の変遷を見ていた記者も、来年は馬場の年になる-。そう確信した。メモリアルを優勝したことで、今年も賞金トップでグランプリに出場できる道筋が見えてきた。技術だけでなく、タフなメンタルを身につけつつある馬場が、さらに頼もしく見えて仕方がない。【東和弘】