世間は、「年末」真っただ中である。競輪の世界も、華やかなグランプリ(GP)シリーズが開幕し、世間的な注目度は、1年で最も高くなっている。

対して、普通開催に目を移せば「期末」の時期である。来年後期(7月~12月)の級班が決まるため、競走得点がボーダーラインの選手は、いわゆる「勝負駆け」に挑むことになる。

松戸のF1ナイター初日(26日)を取材していた。8Rは、橋本智昭(41=宮城)が1着で入線し、2着には小林潤二(51=群馬)が入った。しかし、残り2周で4番手だった橋本が内を突いて先頭に抜け出した走りが「内側追い抜き」と見なされ、失格と判定された。


松戸F1の初日で失格となった橋本智昭
松戸F1の初日で失格となった橋本智昭

前検日(25日)に橋本を取材した時、「松戸バンクに、苦手意識はないですね。印象はいい方です」と答えていた。そこへ勝負駆けも重なり、私は迷わず橋本に◎を打っていた。

失格と判定された後、レースを見た選手からは、「あれ(走法)で失格は厳しい」、「(前を走る選手は)内側は空いていたんじゃないか?」という声も上がっていた。それだけ、ギリギリの勝負だったのだ。この失格により、競走得点からは一気に3点が引かれるため、来々期はA級に降級する可能性が出てきた。

検車場から記者室へ戻る途中、底冷えする荷物置き場で1人、黙々と帰り支度をする橋本の姿を見かけた。正直、かける言葉が見つからなかった。


51歳のベテラン小林潤二は今もS級で活躍
51歳のベテラン小林潤二は今もS級で活躍

繰り上がりで1着になった小林も勝負駆けだった。今年前期はA級で走っていた。そんな、直近で悔しさを味わっているベテランは、最後の直線で1人抜き、さらには後続を封じる技も披露。50歳を超えた今も、脚力が上がっているように見えた。

聞けば、「もう連日、甥っ子に練習でしごかれてますから」と笑う。おいとは、来期はS級1班に復帰する小林泰正(29)。泰正にとって、小林は師匠でもある。「特別(競輪)とか大きいとこでね、泰正や群馬の選手と一緒に、もっと乗りたいんですよ。そのためには、やはり自分がS級にいなければ実現しないからね。必死にやってますよ」と、言葉にも実感がこもる。今年の締めくくりとなった特選7R(28日)も3着に入って、なんとか安全圏内にとどまったようだ。

暮れなずむ年の瀬。半年も先のことを見据えながら、目の前の一瞬と勝負する選手たち。華やかなGPシーズンの陰でも連日、熱いドラマが展開されている。

モーニング、ナイター、ミッドナイト。出走表をじっくりと眺めながら、あれこれと妄想を繰り広げる年末、いや、期末の一日。だからこそ、競輪は面白い。【鈴木豊】