<ロンドン五輪アジア最終予選>◇8日◇中国・済南

 なでしこジャパンがロンドン五輪出場権を獲得した。強敵北朝鮮を相手に後半38分にオウンゴールで先制したが、ロスタイムに追いつかれ、1-1で引き分けて勝ち点10とした。しかし中国がオーストラリアに敗れ、同5にとどまったため、日本の2位以内が確定した。W杯女王として厳しいマークを受ける中、重圧をはねのけ、3大会連続4度目の五輪切符を手にした。日本の団体競技ではロンドン五輪切符第1号となり、来年の同五輪では史上初の「W杯翌年の金メダル」を目指す。

 宿舎のテレビの前で中国の敗戦を見届け、ロンドン五輪出場を勝ち取ったMF沢穂希(33=INAC)には安堵(あんど)の笑顔が戻った。

 沢

 正直ホッとしました。W杯からずっと休みなく疲労感のある中でなでしこらしいサッカーができない部分もありました。ただ厳しい中でも1戦1戦積み重ね、今日も勝ち点1を積み重ねることができました。厳しいアジアの戦いが続きましたが、自分たちが頑張ってきた結果。今日、勝ち点3で決められれば一番良かったけど、目標としていたロンドンの切符を成し遂げたことは良かった。いつもたくさんの方が応援して背中を押してくれ、パワーとなったことで結果がついてきました。感謝の気持ちを伝えたいと思います。

 約3時間半前。終了のホイッスルと同時になでしこイレブンは、頭を抱えて悔しがった。センターサークル付近でMF沢は紅潮した顔を両手で覆い、天を仰いだ。頭を抱え、めくれ上がった芝を思い切り左足で蹴り上げた。

 後半38分、DF岩清水のクロスにFW永里優が体を投げだし右足でシュート。GKチョ・ユンミにセーブされたが、DFキム・ナムヒにはね返り先制点となった。1-0で迎えた同ロスタイム。後半40分過ぎからコーナー付近でキープを始めたが、五輪切符をつかんだと誰もが思った瞬間、スキができた。

 DF近賀がクリアしきれなかったボールを、北朝鮮MFキム・チョランが左足を思い切り振り抜いた。GK海堀が懸命に伸ばした左手は届かず、ボールは無情にもネットを揺らした。蓄積された疲労から沢自身の足も明らかに止まっていた。それでも、卓越した危険察知能力と判断力は健在。攻守の要として最後まで仲間の支えとなり続けた。

 沢

 私の目の前で打たれました。悔しい思いをすることで気づくこともある。(W杯で敗れた)イングランド戦もそうだったし、プラスに考えたい。全部勝ってすっきり決めたかったですけどね。

 沢にはすでに“姉”と認めた1人の女性がいる。幼少期から常に寄り添ってきた兄典郷(のりさと)さんが10年来交際している恋人紀代子さん。「ノリくん、紀代子さんを幸せにしないと私が許さないからね」。国立で行われた04年の北朝鮮戦も、先月19日の凱旋(がいせん)試合も、紀代子さんは会場で見守っていた。兄は北海道で牧場関係の仕事をしていたが帰京。復帰を目指している。結婚は安定した給料を手にしてからと考えていたが、沢の活躍が気持ちに変化を及ばせた。「僕も穂希に負けてられないですよね。ロンドンには家族を1人増やして応援に行かないと」と話し、沢の活躍が幸せも導きそうだ。沢にとっても発奮材料がまた1つ増えた。

 W杯の優勝、MVP、得点王。五輪切符も4戦無敗で勝ち取った。佐々木監督は「疲労感もありながら、W杯のような派手なゴールは無くても、攻守のつなぎとしていぶし銀の活躍をしてくれた」と最大級の評価を与えた。

 家族の思い、仲間の思い、そして女子サッカーの発展のために-。たくさんの期待を背負いながら「女王」沢の戦いはロンドンへと走り始めた。【鎌田直秀】