<W杯アジア最終予選:日本1-1オーストラリア>◇B組◇4日◇埼玉

 本田が決めた。日本(FIFAランク30位)が世界最速で、来年のW杯ブラジル大会出場権をもぎ取った。同アジア最終予選でオーストラリア(同47位)に後半先制を許すも、MF本田圭佑(26)のロスタイムの同点PKで1-1で引き分けた。5大会連続5度目のW杯出場で、初めて国内で決めた。ロシアから帰国したばかりの本田はいつものトップ下で先発し、攻撃を指揮してPKチャンスも奪った。公言する「優勝」のかかるブラジル大会は来年6月12日に開幕する。

 本田はつい5分前に爆発させた感情を、そっとしまい込んだ。自らのPKで土壇場で引き分けに持ち込み、世界最速のW杯出場をまさに自力で決めた直後だった。ピッチ上に選手とスタッフの歓喜の輪ができた。主役はスッと仲間の輪を離れた。「持ってる男」は、まるで傍観者のように仲間を見つめていた。

 真っ先に場内インタビューに呼ばれた。第一声はPKについて。「いやー、皆さんがかなりプレッシャーかけてくれたんでね」。6万2172人のサポーターをしっかりと沸かせ、表情を変えず続けた。「6月はコンフェデレーションズ(杯)もあります。みなさんあんまり期待していないかもしれないですけど、僕は優勝するつもりで行くんで」。W杯切符を手に入れた直後の堂々たるW杯プレ大会優勝宣言。過去を振り返るのが嫌いな男。数分前のことも当然過去なのだ。

 前日3日にロシアから帰った。同国2冠達成のロシア杯決勝から「中2日」の強行日程でも、当然のようにトップ下で先発した。タメをつくって攻撃に落ち着きを与え、ドリブルと正確なパスで相手の急所を何度も突いた。1点を追う終盤もFW香川と連動しながら強引に攻めた。同点PKは、追い詰められた土壇場の後半ロスタイム。本田の右クロスがDFマケイの左手に当たって生まれた。

 当然のようにPKスポットに仁王立ち。一番思い切りが必要なコースのど真ん中に蹴り込んだ。「結構、緊張してたんでね。真ん中蹴って捕られたらしゃーないなと」。極限の状況下でも、動じなかった。

 なぜ喜ばないか。性格は素直ではないが、どこまでも純粋に、公言する「W杯優勝」を信じ突き進んでいる。壮大な目標を一切気後れせず、真っ正面から言い切る。もちろん自分のためであり、日本サッカー界のためであり、もっと広く日本社会への“提言”という側面もある。愛する日本が、だれでももっと平等に目標を公言できる社会になればいい、そういう持論が本田にはある。

 「日本はすぐにネガティブな方に考え方が向くでしょ。子どもたちがもっと“こうなりたい”って思いを素直に口に出して、それをポジティブに応援してあげられる社会になっていけばいいなと思う。今、日本ではワンピースって漫画が人気があるんですよね?

 海賊の漫画なんでしょ。でも、子どもたちが海賊になりたいなんて言うと、顔をしかめる人もいると思う。でもそうじゃない。いいんですよ。子どもにだって、だれにだって“こうなりたい”ということを素直に口に出す権利はあるんやから」

 かつてビッグマウスと言われた。その当時からこう言い続けてきた。「オレは環境先行型だから」-。「有言実行」ではなく「環境先行」。確かにそうだ。「W杯優勝」と前回大会前から堂々と言い、今では共鳴するDF長友や慎重なMF遠藤、若い香川でさえ同じ目標を口にする。W杯では過去、最高でも16強の日本が、だ。本田という「熱」で確かに環境は変わりつつある。

 そう思えば、まだ喜べるはずなどない。W杯出場は世界の頂点を狙う入り口にすぎない。先行する環境に、残り1年でどう追い付き、どう世界の頂点まで駆け上がるか。ここからが本田圭佑という男が見せる物語の本番だ。もしかしたら、W杯で優勝しても喜ばないかもしれない。だからこそ、この男にはどこまでも期待を寄せたくなる。【八反誠】