日本唯一2度のW杯指揮で、初出場と自国外で初の16強を経験したサッカー元日本代表監督、岡田武史氏(66=日本協会副会長、J3今治会長)が初のベスト8へ「神は細部に宿る」の徹底を求めた。22年カタール大会も「日刊スポーツ特別評論家」として1次リーグ(L)最終スペイン戦を評価。同じ勇気あるプレスを決勝トーナメント(T)1回戦クロアチア戦でもかける姿勢を求めた。【取材・構成=盧載鎭、木下淳】

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本当に良かった。ドイツとスペインに勝つなんて、自分たちの世代では夢のまた夢。感激したよ。しかし今の日本は、そうではないはずだ。93年「ドーハの悲劇」は東京のスタジオで(日本協会の田嶋幸三)会長と解説していて、この第3戦から実際ドーハに入ったが、正直つながりは感じなかった。今は別次元だよ。

10年南アフリカはPK戦でパラグアイに敗れて8強に届かなかったけど、どこか1次Lを突破して満足している感もあった。18年ロシアでは1次L最終戦で6人を温存し、ベルギー戦に全てを懸けたが、あと1歩のところで逆転負けした。そんな経験を積み上げてきた日本が、いよいよ決勝T初勝利へ4度目の挑戦だ。鍵は日本のスタンス、どれだけ長くファイティングポーズを取り続けられるか。

その意味で、スペイン戦の振り返りをクロアチア戦への期待としたい。試合の転機は前半33分あたりにあった。序盤はブスケツを前田が1人で見ているだけでロドリらストッパーが常にフリーだったが、あの時間帯、森保の指示か選手の判断か(田中)碧が相手の最終ラインまで、谷口がガビまで押し上げるようになってプレスがかかり始めた。

「これだ!」と試合中に思ったよ。そして後半から三笘、堂安の投入でスイッチが入り、守備は5-4-1でコンパクトに。今のレベルでハードワークしてボールに迫り続ければ、スペインでも苦しむ。実際、やられる雰囲気もなかった。

次は、さらにこだわり抜いてほしい。かねて「神は細部に宿る」と言ってきたが、あえて指摘したい。1失点目だ。クリアボールを拾われた後、相手はパスを足の裏でしっかり止めて、顔を上げて、中を確認してからクロスを上げていた。そこに全力で詰めなかったから余裕を与えた。間に合わなくても追い切って、足音を聞かせるだけでも視野に入るだけでも、相手は力むものだ。次はそういう細部までやり切ってほしい。

一方、国内外で話題になっているようだが「三笘の1ミリ」は素晴らしかった。AI判定がなければアウトだったかもしれないが、最後まで諦めずに追いかけたからこそ。未到のベスト8の地を踏む気ならば、クロアチア戦も怠らず細かい部分まで突き詰めてほしい。

しかし三笘はすさまじかったな。守備は猛烈なプレスで顔を上げさせず、攻撃も秀逸。あのスペインが何もできなかった。1人で攻守を劇的に変えたと言っていい。大きいよ、彼の存在は。相手もカルバハルが後半から出てきて同条件だったのに、仕事をさせなかった。本人は頭から出たいと思うけど、あの質を今大会は45分に凝縮してほしい。

中3日でクロアチア戦を迎えるが、相手も条件は同じ。もちろん強いし、うまいし、少々回されるかもしれない。「ドイツ戦の後半」と「スペイン戦の前半33分以降」を今大会のベスト戦法として、いかに勇気を持ってプレスをかけられるか、が肝要になると思う。

モドリッチも37歳。さすがに準優勝した4年前より少し落ちた印象を受けた。迫力は感じたが、チャンスは十分ある。次もやはりストッパー3枚の方が安心感が出るし、普通ならボールに出ていけなくなるところで、相手陣までいけていたので続けてほしい。板倉は出場停止だが、冨安は戻れそうだ。心配していない。

クロアチアとは初出場の98年フランスでも対戦(0-1)したが、ものすごく強かった。ボバン、プロシネツキ、アサノビッチに得点王スーケルで3位。06年ドイツは0-0だったが、どちらも今とは比較できないくらい日本全体のレベルは上がっている。ドイツに勝った後、Bミュンヘンの方が強いと言えるほどの物おじしない集団だからね。

あとはシンプルに「やるだけ」だ。勝ち点9(3連勝)の国がゼロだったのは94年の米国大会以来28年ぶり。異例ずくめの大会で、決勝Tに入ればますます何が起きてもおかしくない。

森保の歴史的2勝は、自分や西野(朗)さんの先へ日本を進めてくれた。とにかく何度も言うが、今の日本代表チームが勝つためにどうすればいいか「世界一」考えているのは森保だ。彼の直感を信じよう。それは何もないところからは生まれない。試合までの積み重ね、情報収集があってこそ、当日の選択がシナジー(相乗作用)を起こす。森保には直感が当たる資格があると思っている。(日本代表監督=98年フランス大会、10年南アフリカ大会)