大会の余韻が残る中、話題になるのは「ベストゴール」だ。カタール大会で全64試合で生まれたゴールは史上最多の172。98年フランス大会と14年ブラジル大会の171を上回った。「エムバペのボレーがすごかった」「美しさではネイマールのゴール」「堂安のミドルも強烈」…。それぞれお気に入りがある。

1次リーグ序盤で「ベストゴールは決まり」と言われたのが、ブラジルFWリシャルリソンのセルビア戦でのアクロバチックな一発だ。左からのパスをゴールに背を向けたまま浮かせると、そのまま右足でオーバーヘッドキック。ボールは相手DFの顔をかすめて、ゴールに突き刺さった。

W杯のオーバーヘッドというと、82年スペイン大会準決勝フランス戦の西ドイツ代表FWフィッシャーを思い出す。Jリーグでも活躍した天才ドリブラー、リトバルスキーの左クロスをルベッシュが頭で折り返したボールを決めた。延長での3-3の同点弾は、チームをPK戦(勝利)、決勝へと導く一発になった。

02年日韓大会では、ベルギー代表FWビルモッツが1次リーグの日本戦で決めている。見事な先制点だったが、この後FW鈴木隆行とMF稲本潤一に同点、逆転ゴールを決められて逆転負け。陰が薄くなった。

82年大会でのブラジルMFジーコがニュージーランド戦で決めたバイシクルシュートも見事だった。86年大会のブルガリア戦でメキシコMFネグレテがFWアギーレ(元日本代表監督)からのパスで決めたボレーもFIFAが「歴代ベストゴール」に選んでいる。

もともと、オーバーヘッドはブラジルなど南米で発達した技術。王様ペレが名手として有名で、72年に来日した際には渋谷の百貨店屋上でのサイン会でも私服のまま見事なキックを見せた。映画「勝利への脱出」でもクライマックスで披露し、物語に花を添えた。

ブラジル選手に名手が多いのは、同国で盛んなビーチサッカーの影響もある。ビーチでは浮き球の処理が多く、キック体勢に入ったら守備側のチャージが禁じられているためオーバーヘッドは一般的。試合でも普通に行われる。伝統格闘技「カポエイラ」の足技のようなシュートには、ビーチの技術も詰まっていた。

ビニシウスのパスは、ドリブルしながら右足アウトで出したもの。フットサルでよくあるテクニックだ。フットサルとビーチサッカーの融合が、あの超絶ゴールを生んだ。ブラジルでは11人制の育成段階でフットサルとビーチサッカーも取り入れている。コートと砂浜で培ったテクニックが、11人制にも生かされているのだ。今大会はベスト8で敗退したが、王国の強さの秘密がここにもある。【荻島弘一】(ニッカンスポーツ・コム/記者コラム「OGGIの毎日がW杯」)

ブラジル対セルビア 後半、2点目のゴールを決めるブラジル代表リシャルリソン(手前)(撮影・横山健太)
ブラジル対セルビア 後半、2点目のゴールを決めるブラジル代表リシャルリソン(手前)(撮影・横山健太)
ブラジル対セルビア 後半、2点目のゴールを決めるブラジル代表リシャルリソン(手前)(撮影・横山健太)
ブラジル対セルビア 後半、2点目のゴールを決めるブラジル代表リシャルリソン(手前)(撮影・横山健太)
ブラジル対セルビア 後半、2点目のゴールを決めるブラジル代表リシャルリソン(手前)(撮影・横山健太)
ブラジル対セルビア 後半、2点目のゴールを決めるブラジル代表リシャルリソン(手前)(撮影・横山健太)
ブラジル対セルビア 後半、2点目のゴールを決めるブラジル代表リシャルリソン(手前)(撮影・横山健太)
ブラジル対セルビア 後半、2点目のゴールを決めるブラジル代表リシャルリソン(手前)(撮影・横山健太)
ブラジル対セルビア 後半、2点目のゴールを決めるブラジル代表リシャルリソン(手前)(撮影・横山健太)
ブラジル対セルビア 後半、2点目のゴールを決めるブラジル代表リシャルリソン(手前)(撮影・横山健太)