まるでジェットコースターのような決勝戦だった。究極の戦術、それを高度に遂行する技術、予想を超える展開、誰をも魅了するエンタメ性、誰にも書けない秀逸なストーリー…。アルゼンチン対フランス、メッシ対エムバペ、役者と舞台がそろった大会史に残る最高の決勝戦だった。

スカロニ監督の奇襲-。ディマリアを先発に復帰させ、本来の右ではなく左FWで起用して先制攻撃をしかけた。中盤を抑えてエムバペを孤立させ、フランスにシュートすら打たせなかった。体調不良からか、60年間連覇がない「W杯の呪い」からか、フランスの動きは悪い。誰の目にもアルゼンチンが優勢だった。

デシャン監督の反撃-。前半のうちに2人を代え、後半にはグリーズマンまで外した。80年代に将軍プラティニらMF陣の華麗なパス回しで「シャンパンサッカー」と呼ばれたフランスが、伝統的に強い中盤の攻防を放棄。個の力を持つアタッカーを前線に4人並べる現実路線で勝負に出た。

シーソーゲーム-。標的が消えて戸惑うアルゼンチンを尻目に、エムバペの2発で同点。延長後半にメッシが決定的な3点目を決めたが、終了2分前にエムバペがPKで再び同点。スリリングな試合展開。そのたびに、ブエノスアイレスとパリに、さらに地球上に歓喜と悲鳴が渦巻いた。

「両者優勝」にしたい濃密な決勝戦。互いに手堅くなって凡戦が多いと言われる決勝戦で、過去にこれだけの名勝負があっただろうか。2年前に亡くなった86年のマラドーナや82年のロッシ(イタリア)、昨年逝った74年のGミュラー(西ドイツ)らが輝いた決勝戦の歴史に、最高の1ページを加える激闘だった。

見どころ豊富だった前日の3位決定戦を上回る内容の決勝戦は、今大会の象徴でもあった。ハイプレスからのカウンター攻撃と強固なブロック守備、試合を通してのハードワーク。波乱もあったし、最後まで勝敗が見えない試合展開も多かった。大会を通して注目されたPKとPK戦は、決勝でもたっぷり行われた。

初戦でサウジアラビアに逆転負けしたアルゼンチンの優勝。それこそが、ジェットコースターだった。普通なら大会中には退屈な凡戦もあるが、今回はそろってハイレベル。少しも目が離せず、睡眠時間だけがどんどん削られていった。

日本も同じだ。ドイツ、スペインに逆転勝ちし、優勢だったコスタリカ戦に敗れた。クロアチアには先制しながらPK戦負け。森保監督の采配に選手が応え、劇的な展開が続いた。子どもたちに「サッカーをしたい」と思わせた。ベスト8以上へ課題もあるが、期待は4年後に膨らんだ。

世界中が1カ月、どっぷりと「祭り」に浸った。最高の決勝戦が、最高の大会を締めくくった。【荻島弘一】(ニッカンスポーツ・コム/記者コラム「OGGIの毎日がW杯」)

アルゼンチン対フランス フランスに勝利し、W杯トロフィーを掲げるアルゼンチンのメッシ(中央)(撮影・パオロ ヌッチ)=2022年12月18日
アルゼンチン対フランス フランスに勝利し、W杯トロフィーを掲げるアルゼンチンのメッシ(中央)(撮影・パオロ ヌッチ)=2022年12月18日
アルゼンチン対フランス 延長後半、ゴールを決めるアルゼンチン・メッシ(撮影・横山健太)
アルゼンチン対フランス 延長後半、ゴールを決めるアルゼンチン・メッシ(撮影・横山健太)
アルゼンチン対フランス 後半、PKを決めてガッツポーズを見せるフランスのエムバペ(撮影・パオロ ヌッチ)
アルゼンチン対フランス 後半、PKを決めてガッツポーズを見せるフランスのエムバペ(撮影・パオロ ヌッチ)
延長後半、同点PKを決めて駆け出すエムバペ(AP)
延長後半、同点PKを決めて駆け出すエムバペ(AP)
後半、同点ゴールを決めるフランス・エムバペ(ロイター)
後半、同点ゴールを決めるフランス・エムバペ(ロイター)