W杯ロシア大会日本代表のMF香川真司(29=ドルトムント)が26日までにドイツ・ドルトムント市内で単独取材に応じ、今冬にスペイン移籍を目指す意向を表明した。

複数の国から獲得の打診が届く中、世界最高峰のリーガ・エスパニョーラに絞って「最終目的地」と表現。スペイン語の学習も始めており、夢舞台への準備に着手した。来年30歳。W杯で得点を決め、16強に貢献した男が、飽くなき向上心で新境地に立つ。【取材・構成=木下淳】

もう、辺りは冬に差し掛かっていた。葉は落ち、朝晩は氷点下まで冷え込む日も増えたドルトムント。在住5年半になり、かつて2連覇も経験した街で、香川が大きな決断を下そうとしていた。クラブは無敗で首位を走る一方、自身は公式戦10試合連続ベンチ外。状態はいい。だが「想定外」の日々の連続に「早く解決策を見いだしたい。その1つがチームを変えること。環境を変え挑戦したい気持ちが強い」と打ち明けた。

後ろ向きではなく、膨らんだ夢をかなえるタイミングと信じている。「ドルトムント、マンチェスターUでやってきたキャリアを信じれば、どの国であっても恐れるものはない」。2度のW杯を経験し、得点し、16強に進んだ。欧州ではビッグクラブ在籍年数が8年を超えた。香川真司にとって、その夢とは最後に残されたものなのか。単刀直入に聞くと迷いなく言った。

「この2、3年、常にスペインに行くにはどうすればいいのか考えていた。スペインに行かずに、サッカー選手を終えることはできない。必ず成し遂げたい」

ここまでの断言は、よほどの覚悟がなければ無理だろう。欧州各国から獲得興味を示されても、意中の国はただ1つ。もちろん、正式な形になるまでは「ドルトムントでベストを尽くす」つもりだが「人生初」という構想外の扱いには「チームからのメッセージだと思っている。今は新たなチャレンジ、スペインにモチベーションを費やすしかない。失うものはないし、必ず次のステージでも輝く自信がある」と力を込めた。

年明けに開く移籍市場でスペイン行きを現実にすべく、今後具体的に話し合いを進めていく。決断はリスクも伴うが、胸は高鳴る。

「物心ついたころ、初めて映像で見た海外サッカーが『リーガ』だった。バルセロナにリバウドがいたころ。中学、高校とも(FCみやぎ)バルセロナと名がつくチームでプレーしてきたし、スペインからは多くのインスピレーションをもらった。自分のスタイルが合うと第一に感じた国でもあった。長い間、待ったチャンスを逃したくない。小さなころからの夢を成し遂げ、自分が必ず結果を出すことで、次の世代の選手がスペインでプレーする橋渡しにもなれるように。日本人の評価を高めるという使命も背負ってプレーしなければ。最近は、そこまで想像する日々を送っている」

ドイツ語、英語に続きスペイン語の学習も始めている。「これまでのチームにいたスペイン人の仲間は最高だった。デヘア、マタ、バルトラ、アルカセル…。みんな気が合ったし、プライベートもともにすることが多かった」。過去の移籍では「ピッチに立てば共有できる感覚があったから」と、今回のように語学勉強などの事前準備は表立ってしてこなかったが「今は違う。年齢的にも自分の立場はチームを引っ張っていく必要がある。言葉、環境、文化、すべてを受け入れなくてはいけない。まだまだ勉強中ではあるものの、コミュニケーションを取るために。オフ・ザ・ピッチの共有も大事だし、1人の人間としても住むのであれば努力したい」と変化した。

あとは実行に移す。既に今年だけで複数回スペインに渡っており、先日はバルセロナで休暇を過ごした。「試合に絡めない現状に感情が爆発しそうになる時もあるし、受け入れるのは簡単ではない。その中で、いつもと違う街で新たな空気を吸ってリフレッシュできた。あらためて最も行きたいリーグだと思えたし、最終目的地が目の前まで来たんだなと。キャリアの中で最大の挑戦になる」。最後までスペインへの思いを隠さない。本気だ。クラブを決め次第、イベリア半島を新たな挑戦の舞台にする。