【ドーハ=上田悠太】京大卒の金メダリストが誕生した。初出場の山西利和(23=愛知製鋼)が1時間26分34秒で優勝。世界ランキング1位の実力を示し、20年東京オリンピック(五輪)の代表にも内定した。

京大出身、そして旧帝国大出身まで含め、陸上の五輪、世界選手権での金メダル獲得は36年ベルリン五輪男子3段跳び田島直人以来、83年ぶりの快挙。池田向希(21=東洋大)は1時間29分2秒の6位、高橋英輝(26=富士通)は1時間30分4秒の10位だった。

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日本勢初となる20キロ競歩のメダル、しかも色は金でも笑顔は少なかった。勝者の弁を述べる取材エリアで、山西は「うれしい気持ちとほっとする気持ちと…」と口にし、10秒間、思慮を巡らせた。「ちょっとやりきれない気持ちです」。素直には喜べず、浮き彫りになった課題を戒めた。

計算ははまった。7キロ付近で飛び出し、1人旅に。集団のまま後半にもつれ、体の大きい海外勢に有利な瞬発力の勝負となる展開を避けた。根拠は存在しても、思い切った作戦。「怖さに立ち向かわないと、チャレンジをしている意味がない」。京大工学部に現役合格した男は、練習から完璧を求める性だ。恐怖心に打ち勝ち、勝負を制しても、満足できないのは、内容が100点ではないから。「ラスト3キロで行ききれなかった。勝ったけど、それは偶然、相手が来なかっただけ」。接戦なら勘所となる場面で、ペースを上げられなかったことを悔いた。

敗戦を糧にする。部屋には4位の世界チーム競歩選手権と、3位の日本選手権の「順位札」を飾る。日常で目の触れやすい場所に置き、悔しい感情を想起させ、活力とする。今季は50キロで金メダルを取った鈴木とも多く練習した。「横で歩くリズム。音で感じる部分。目で見る部分」などを明晰(めいせき)な頭脳で解析。蹴る足が上がりすぎる癖などを修正し、理想の形を求めた。

「僕は二番煎じ」と言うが、五輪、世界選手権を通じ、京大出身者の陸上金メダルは83年ぶり2人目だ。また京大出身者では、52年ヘルシンキ五輪男子1600メートルリレー代表の山本弘一以来となる五輪の代表にも内定。京大のOB、OGに限れば史上6人目、旧帝大出身者に広げても、史上10人目の陸上五輪選手となるから、その偉業は際立つ。

実は「京大卒」だからと力以上の注目を集めることに悩みもあった。でも、もう大学の肩書など無くてもいい。アスリートとしては、この上ない「金メダリスト」との看板を手にした。

◆山西利和(やまにし・としかず)1996年(平8)2月15日、京都・長岡京市生まれ。堀川高1年時に競歩を始める。3年夏に世界ユース選手権1万メートルを優勝。京大工学部にセンター試験は「D判定」から逆転の現役合格。専門は制御工学で、卒業論文のテーマは「部分空間同定法を用いた信号の周波数推定」。入学後は17年ユニバーシアードで金メダル。今年3月の全日本競歩能美大会を世界歴代4位、日本歴代2位の1時間17分15秒のV。164センチ、52キロ。