平昌五輪で3つのメダルを獲得したスピードスケート女子の高木美帆(23=日体大助手)の長いシーズンがようやく幕を閉じた。

 今季はW杯の3000メートルで日本勢初優勝を果たし、2月の平昌五輪で1000メートル銅、1500メートル銀、団体追い抜きで金メダルを獲得。3月の世界選手権を欧米選手以外で初めて制すと、W杯の総合Vも達成。文字通り「世界一」のオールラウンダーへと一気に駆け上がった。

 大きなプレッシャーの中で戦い続けた精神力もさることながら、取材を通してすごみを感じたのは、複数種目で結果を出し続ける肉体的なタフさだ。五輪は1日1種目だが、W杯はそうではない。1つのレースが終わり、大急ぎで表彰式に参加し、再び大急ぎで次のレースの準備に戻る姿を何度も目にした。

 心身の疲労がたまるシーズン終盤の2、3月に、高木が爆発的なスピードを維持できた要因の1つに「食」の改善がある。昨シーズンの終盤、体調はどん底だった。連戦による疲労で体重は2キロ近く落ち、転倒するほどの立ちくらみにも悩まされた。1年後に迫った五輪と同じ時期とあり、不安を取り除くため、昨年5月のオフ期間に食事の改善に取り組み始めた。

 北海道・帯広で始めた1人暮らしに合わせ、かねてサポートを受けていた明治に栄養面の指導を依頼。ボクシングの井上尚弥、陸上の福島千里らを担当する管理栄養士の村野あずささんとタッグを組み、一から食事を見直した。

 主眼に置いたのは、鉄分対策だった。ヘモグロビンの数値が低く、高野豆腐、きくらげ、ひじき、牛の赤身などを増やし、自宅近くの飲食店にも協力を依頼。あさりの炊き込みご飯、レバーの薫製、レバーのサンドイッチなどの特別メニューを用意してもらい、外食時にも鉄の補強を徹底し、同世代の女性が1日に摂取する量の倍を目指した。

 5月から1日も欠かさず、3食すべてのメニューを村野氏にメールで送る徹底ぶりで、1度の食事で、主食、肉や魚、野菜、果物、乳製品をすべてとる「栄養フルコース型」の食事法もマスター。体調の変化と同時に、練習でより体を追い込める好循環を実感すると、追求はさらに高いレベルにおよんだ。友人とカフェに出かけた時も、メニューの写真を撮影し、選んだものと合わせて村野さんに報告。「正解はどれでしたか?」と聞くなど、貪欲に知識の幅を広げた。

 重要なシーズンに、貧血の症状は出なかった。村野さんが「継続してやらないと意味がないことを高木選手自身が一番分かっている。ここまでできるアスリートはなかなかいない」と脱帽すれば、高木も「ヘロヘロだった去年とは、精神的にも全然違う。春から続けてきたことが大きい」とうなずいた。

 W杯最終戦が行われたベラルーシから日本に戻った今月20日には、現在、未来について思いを語った。

 「1回、2回勝てたからといって、海外の選手たちの力を上回ったとは思ってない。これからの時間というのが、今年の成績の価値を決めていく。これからも自分より上にいける人たちを超えていけるような過ごし方をしていきたい」

 氷の上でも氷の外でも戦い続けた23歳は、それでも謙虚に、さらなる高みを見据えた。まずは酷使した体を休め、そして再び、高木にしかできないダイナミックな滑りを見せて欲しい。【スピードスケート担当=奥山将志】

鉄分対策用に食べていたレバーサンド
鉄分対策用に食べていたレバーサンド
W杯総合優勝を果たし帰国した高木美帆(撮影・柴田隆二)
W杯総合優勝を果たし帰国した高木美帆(撮影・柴田隆二)