赤のユニホームに身を包み、手元には名刺入れ-。

フラッグフットボール女子日本代表のWR近江佑璃夏(おうみ・ゆりか、24=BlueRoses)は記者会見を終えても、競技に対する愛情を言葉にした。

10月16日、幼少期から取り組んできたフラッグフットボールが、28年ロサンゼルス五輪(オリンピック)の追加競技に採用された。

普段は人材関係の企業で平日の週5日、営業にまい進する。社会人2年目の24歳は、都内の会見場で「安堵(あんど)の気持ちが大きいです」とほほえんだ。

「フラッグフットボールは戦略的に自分たちで考えるのが魅力です。バスケットボールやサッカーのセットプレーを、毎回やる感じ。相手がどういうディフェンスをしてくるから、どうオフェンスをするのか…。そう考えながらチャレンジします。ただ体を動かすだけでなく、頭を使いながら取り組めるスポーツです」

アメリカンフットボールを起源とし、タックルの代わりに腰につけたフラッグを取る競技。大阪市生まれの近江は、フラッグフットボールに取り組んでいた両親の影響で物心がついたころからフィールドにいた。

「今は仕事もフラッグも5対5(の割合)。夜の8時、9時、10時…になる平日の仕事終わりにトレーニングをして、週末にチームの練習をしています。今後は、それだけでは(代表に)選ばれないと思います。1つの区切りとして『よりフラッグに注力していこうかな』とも考えています」

五輪競技になるかも-。数年前から風のうわさを聞き、この日を待っていた。

京都・立命館宇治中高ではバスケットボール部。立命館大では2年間チアリーディングに取り組み、そこからフラッグフットボールの日本代表入りを果たした。中学3年生のころには夏にバスケットの引退を迎え、同じ部活の仲間やバドミントン部を誘ってフラッグフットボールのチームを結成。全国大会で優勝した。

大学卒業後はよりよい環境を求めて上京し、今の所属チームである「BlueRoses」を立ち上げた。練習は基本的に週1日。土曜の夕方、多摩川の六郷土手で行う。仕事で2年ほど日本にやってきた元メキシコ代表選手らが10人ほど集まった。「新しいチームならではで、1人1人が活躍できている」。目まぐるしい日々だが、フラッグフットボールは生きがいだ。

競技の特徴の1つに分析の緻密さがある。現在のポジションのWRはパスを受けるため、キャッチングには中高のバスケットの経験が生きた。準備に関してはチアリーディングのそれにも通じる。一方で「相手をすごく分析する。そこに自分たちのプレーを合わせ、相手もいることなので判断も入ってくる。準備の量が違う」と苦労も明かした。

記者会見では男子日本代表の岩井歩ヘッドコーチ(HC、49)も具体例を示した。代表では約1万5000プレーがストックされており、その都度掘り起こしながら、毎日頭をひねる。代表を指揮するHCが「『なんでこんな競技を選んじゃったんだ…』と夜中に思う」と自虐ネタで笑わせつつ「戦略性に富んでいて、魅力にあふれている。究めるのは大変だけれど、やりがいを持って取り組める」と評する競技。10月27~29日にマレーシアで行われる第1回アジア・オセアニア大陸選手権は、情報が不足している相手国もあり、近江は「選手で担当を作って(相手国の選手たちの)SNSのアカウントを探しながら情報収集もしています」と裏話も明かした。

身体的接触がなく、運動能力のみならず分析や戦略、コミュニケーションも大切であることから、小学校の体育の授業でも本格的な導入が始まっている。現在の女子は世界ランク6位。5年後の五輪に向け、いずれは本大会の切符をかけた予選も行われることになる。節目の日に、近江は大好きな競技の未来を描いた。

「最初に『そんな夢(五輪出場)を見ていいのかな』と思っていたものが、大きな目標として現実味を帯びてきました。アメリカンフットボールを含めて、全てのフットボールが発展してほしい。今は『フラッグフットボールの日本代表です』と伝えても『何、それ?』と言われます。老若男女、誰でもできることも知ってもらいたい。個人としては五輪選手になり、メダルを取れるように、関わっていきたいと思います」

昨年度の大会参加者は2640人で、関係者によると競技人口は約4000人。大きな可能性を秘めた競技とともに、近江の新たな挑戦が始まる。【松本航】(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「We Love Sports」)

◆フラッグフットボール アメリカンフットボールを起源に生まれ、日本には90年代後半に本格的に伝わった。タックルの代わりに選手の両腰につけたフラッグを取る。コンタクトはなくブロック、タックル、キックは認められていない。5人対5人で行い、フィールドは50×25ヤード(45・75メートル×22・90メートル)。前後半各20分。4回の攻撃権があり、4回までにハーフラインを超えれば、さらに4回までのプレーが可能。相手のゴールにボールを持ち込むと得点。守備側はボールを持った選手のフラッグを取ったり、相手が投げたボールを奪って前進を止める。最初の4回の攻撃でハーフラインを超えさせない、次の4回の攻撃で得点させなかった場合に攻撃権を得る。得点時も攻守交代。タッチダウンは6点。他にタッチダウン後のボーナスポイントで1~2点、守備側に2点が入る場合などがある。

フラッグフットボールが2028年のロス五輪の追加競技に選出され笑顔を見せる、(前列右から)男子代表の植松、女子代表の近江、日本アメリカンフットボール協会寺田会長ら関係者(撮影・たえ見朱実)
フラッグフットボールが2028年のロス五輪の追加競技に選出され笑顔を見せる、(前列右から)男子代表の植松、女子代表の近江、日本アメリカンフットボール協会寺田会長ら関係者(撮影・たえ見朱実)
2028年ロス五輪の追加競技に選出され、笑顔を見せるフラッグフットボールの関係者(撮影・たえ見朱実)
2028年ロス五輪の追加競技に選出され、笑顔を見せるフラッグフットボールの関係者(撮影・たえ見朱実)
2028年ロス五輪の追加競技に選出され、笑顔を見せるフラッグフットボールの関係者(撮影・たえ見朱実)
2028年ロス五輪の追加競技に選出され、笑顔を見せるフラッグフットボールの関係者(撮影・たえ見朱実)