PGAツアーは年をまたいで開催するため、2017-2018年シーズンの開幕戦は10月1週目のセーフウェイオープンとなる。10月から1月にかけて毎試合のように試合に出る選手は、主にランキング下位の選手だ。そういった選手たちにとって、出場選手層の薄い時期の試合はポイントや賞金を稼ぐには絶好のチャンスとなる。

 一方、10月~1月をオフにあてるトッププロたちは、この期間でシーズン中にできない取り組みを行っている。


●プロも最初は自分を知る事から始める


 オフシーズンにまず行うのは、自分の状態を知る事だ。少し前まではコーチがスイングを撮影して、それをもとに動きを調整していくやり方だった。

 しかしテクノロジーが発達した今、目に見える動き以外も計測することができるようになった。その代表的なものが”力の動き”を確認する装置を使った計測だ。

フォースプレートによって地面反力を計測できる
フォースプレートによって地面反力を計測できる

 アマチュアのレッスンでもよく「体重配分」や「重心の移動」という言葉が出るが、これはビデオで撮っただけでは確認する事ができない。この”力の動き”を可視化できるのがフォースプレートという装置だ。フォースプレートは埋め込み式の計測装置で、地面への上下左右にかかっている圧力を測る事ができる。

 これをモーションキャプチャーなどで計測したスイングの動きと組み合わせる事で、どこに問題があるのかをより細かく確認する事ができるのだ。

 さらに距離別のパーオン率といったスタッツや、弾道計測器の球筋のデータも加えて対策すべきショットの種類を決めていく。

 トラックマンに代表される弾道計測器は、流通量が多くなったことで価格が下がりかなりメジャーなものになったが、残念ながらフォースプレートはまだその域に達していない。価格が1000万円以上するため大学の研究室など限られた場所にしか設置されていないのだ。選手たちはそういった場所に行って計測をしたり、バイオメカニクス(生体力学)の研究者たちと意見交換をするために自分の課題探しの旅に出かけるのだ。

 大学教授による高価な機器による測定を受けるかわりに、選手たちはスイングの情報を研究者に提供する。私もジャスティン・ローズやリッキー・ファウラーなどの測定結果を見せてもらったことがあるが、見た目とデータのギャップがあり非常に興味深かった。

 このように選手と研究者が「Win-Win」な関係を築くことで相乗効果を生んでいる。

クラブや手にかかる力も計測できる
クラブや手にかかる力も計測できる

●取ったデータをどう料理するかはコーチの役目


 1年間戦う上での筋力強化もオフの時期にしかできないトレーニングのひとつだ。計測したデータから課題を見つけ出して、どういったトレーニングすべきかを決めていく。

 ザック・ジョンソンやブライアン・ハーマンのフィジカルトレーナーを務めるランディ・マイヤーズは、時期によって全く違ったトレーニングメニューを提供している。

 「1年間を通して試合に出る選手は、その時々に合ったトレーニングを行っています。シーズン中はコンディション維持を目的に負荷が軽いもの。オフの期間はヘビーウェイトで筋力をつけるトレーニングを行います」

 フィジカルトレーニングによって身体が変わると、当然ながらスイングも変化する。イメージと実際の動きが合わないという状態になるのだ。この乖離を埋めつつ、計測で得られたスイングの課題を修正していく。フォーム固めは、身体の感覚を感じやすいミドルからショートアイアンで行うのが一般的だ。

トッププロのフィジカルトレーナーを務めるランディ・マイヤーズ氏
トッププロのフィジカルトレーナーを務めるランディ・マイヤーズ氏

 トッププロともなるとスイングの基礎は固まっているので、量より質を重視した練習を行う。

 以前、フロリダにあるデビッド・レッドベターアカデミーを訪れたことがある。オフシーズンはリディア・コなどのトッププロが訪れ、トレーニングをしていた。非常に練習熱心なプロで放っておくと1日中練習をすらしいが、カゴ一杯のボールを片っ端から打っていくようなことはなかった。

 施設内から屋外に打てる打席があり、そこで1球ごとに弾道の計測をしながらショット練習をする。天気や時間に関係なくみっちりと練習をする事ができるのだ。

 こうしてトッププロたちは2~3月に万全の状態になるよう仕上げていく。当然ながらその先にはメジャー初戦であるマスターズが控えている。今は4月1週目に満開の花が咲くように種を撒く時期なのだ。

 ◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。シングルプレーヤー養成に特化したゴルフスイングコンサルタント。メジャータイトル21勝に貢献した世界NO・1コーチ、デビッド・レッドベター氏を日本へ2度招請し、レッスンメソッドを直接学ぶ。欧米のゴルフ先進国にて米PGAツアー選手を指導する80人以上のゴルフインストラクターから心技体における最新理論を直接学び研究活動を行っている。書籍「ロジカル・パッティング」(実業之日本社)では欧米パッティングコーチの最新メソッドを紹介している。オフィシャルブログ http://hiroichiro.com/blog/

(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ゴルフスイングコンサルタント吉田洋一郎の日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)