今年で147回目の開催となった全英オープン。その長い歴史の中で初となるイタリア人のチャンピオンが誕生した。今回の優勝がメジャー初優勝となったフランチェスコ・モリナリ(35)は、固く締まったカーヌスティ・ゴルフリンクスのグリーンを見事に攻略してみせた。


●メジャー初優勝とともに手にしたもの


 優勝したモリナリは欧州ツアーを主戦場に戦う中堅プロだ。10年以上のキャリアがありPGAツアーでも3勝を挙げ、現時点で世界ランクで6位につけるが、メジャーで優勝候補として名前が挙がるようないわゆるトップクラスの選手ではない。2016年に開催された母国のナショナルオープン以降目立った活躍はなく、今年も5月中盤までは出場した公式戦でトップ10フィニッシュは0回だった。

 しかし5月末のBMW選手権の優勝を皮切りに、その後は全英オープンまで2位(イタリアオープン)、25位(全米オープン)、優勝(クイッケンローズ・ナショナル)、2位(ジョンディアクラシック)と好調を維持させた。これだけ短期間に最終日、優勝争いに絡むプレーを経験ができた事は、全英オープンに向けてとても大きな糧になったはずだ。

 そして全英オープンで最終日に同組だったタイガー・ウッズのように、世界ランクの上位ランカーやベテラン選手はメジャーに照準を合わせて調整を行うが、そんな彼らよりも好調を維持し続けられた調整能力がもたらした勝利と言えるだろう。モリナリが今回「メジャーに勝つための調整方法」を知ることができたのは、クラレットジャグを獲得した事にも匹敵する収穫だと思う。今後の大きな大会でも今回の経験を生かし、上位に名を連ねてくる可能性が高くなった。


●感覚を生かすモリナリのパッティングコーチ


 このタイミングで調子を上げたのは、コーチの影響もあるのかもしれない。昨年からデーブ・ストックトンというパッティングコーチとともに、パッティングの精度向上に努めている。

 ストックトンは元々、全米プロゴルフ選手権でも優勝経験のあるツアープロだった。過去にフィル・ミケルソンやローリー・マキロイといったメジャー優勝経験者のパッティングを始動している名コーチだ。

 ストックトンが教えるパッティングストロークの特徴は、クラブヘッドと手元を直線的に動かすという点だ。フェースの開閉を極力抑えインパクトゾーンを長くする事で、球の散らばりを抑える打ち方である。

 以前ストックトンに指導法を聞いた際に「ほうきでスーッと掃く感覚でヘッドを動かす」と教えてくれた。

 直線的に動かすというと一見オートマチックな動きに感じるかもしれないが、フェースの開閉を使った「振り子タイプ」の打ち方より、実は感覚が重要視される。

 「振り子タイプ」のストロークは、背中や胸郭を軸に上半身を回す。手や腕はロックさせてできるだけ使わないようにする事で再現性を高くしている。一方ストックトンの教える「直線的」なストロークは左肩を支点にして腕の感覚も多少入れながらヘッドを直線的に動かす。まっすぐ動かすために感性を使うイメージだ。こちらの打ち方のほうが「フェース面をコントロールしている」と言えるだろう。

 ツアー会場の練習グリーンでは、ストックトンがモリナリの左肩を抑えるようにして練習しているシーンをたびたび目にする。腕の感覚を出しつつ左肩の軸がブレないようにする練習だ。

 全英オープンの優勝をはじめとするこの時期の好調は、昨年からこうした取り組みの成果が実を結んできたものであると思う。


 ◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。シングルプレーヤー養成に特化したゴルフスイングコンサルタント。メジャータイトル21勝に貢献した世界NO・1コーチ、デビッド・レッドベター氏を日本へ2度招請し、レッスンメソッドを直接学ぶ。欧米のゴルフ先進国にて米PGAツアー選手を指導する80人以上のゴルフインストラクターから心技体における最新理論を直接学び研究活動を行っている。書籍「ロジカル・パッティング」(実業之日本社)では欧米パッティングコーチの最新メソッドを紹介している。オフィシャルブログ http://hiroichiro.com/blog/

(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ゴルフスイングコンサルタント吉田洋一郎の日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)

モリナリ(右)のパッティング練習を見るストックトン氏
モリナリ(右)のパッティング練習を見るストックトン氏