先月行われた全米オープンで、唯一アンダーパーを出して圧勝し、話題を呼んだブライソン・デシャンボー。デシャンボーが6打差という別次元の結果を残した要因は、さまざまなところで語られている。その中でも、圧倒的なパワーを背景としたコース攻略法は衝撃を与えた。従来の全米オープンのセオリーとされてきたフェアウエイキープではなく、ドライバーでできるだけ飛ばし、短いクラブでピンを狙い続けるアグレッシブなゴルフを展開した。これまでとは全く違った発想で難コースを攻略した彼のプレースタイルを、「ゴルフというスポーツのあり方を変える」という人さえいる。

今週行われている「シュライナーズホスピタル・フォー・チルドレン・オープン」(TPCサマリン・ネバダ州)でも、初日に380ヤードのパー4をワンオンするなど、規格外の飛距離で他を圧倒している。11月に行われるマスターズでは、48インチのドライバーの投入を示唆しており、更なる飛距離アップは現実のもととなるだろう。デシャンボーにとって、もはや400ヤードのパー4は、「パー3」扱いなのかもしれない。

しかし、デシャンボーは別に「ゴルフという競技を変えよう」とは思ってはいないはずだ。彼は自分の信じることを行い、自分の考えの正しさを実証しただけだ。メジャー初制覇という栄光も、唯一アンダーパーという記憶に残る圧勝劇も、彼が身をもって自分の理論の正しさを証明した結果に過ぎない。


デシャンボーを12歳から指導するマイク・シャイ。最新テクノロジーを駆使するコーチだ
デシャンボーを12歳から指導するマイク・シャイ。最新テクノロジーを駆使するコーチだ

今回の全米オープンで、私が一番印象に残っているのはデシャンボーの自信にあふれた言動だった。優勝後に「自分のゴルフに絶対の自信が持てた」と語っていたが、2日目のインタビューでも、自分のゴルフに対するゆるぎない自信を語っていた。

デシャンボーは自信を持って試合に臨み、勝利によって自信を確信とした。では、その自信とはどこから来たのだろうか。

自信とは文字通り、自分を信じることだ。様々な自信の持ち方があるが、良い結果を出して自信をつけるアウトカム(成果・結果)派、周到な準備を行うことで自信をもって試合に臨むインプット派のどちらかに分かれるように思う。

良い結果が出ることで自信を持つアウトカム派の場合、結果が良ければいいが、悪い結果が出れば急に自信がなくなり不安になるというデメリットがある。スコアや成績などの結果もそうだが、その日のショットの良し悪しによって、自信のバロメーターが左右され不安定になることもある。


デシャンボーの場合、戦略を立てて入念に準備をし、自信を深めるインプット派だ。12歳からデシャンボーを指導する、スイングコーチ・マイク・シャイはデシャンボーについてこのように語っている。

「ブライソンは試合を制したいという気持ちを人一倍強く持っているので、いつも試合に向けて万全の準備を行ってきました。彼の優れている点として、理想的な結果を得るために、効率的に準備する能力に長けていることが挙げられます。」

デシャンボーはジュニア時代からインプット派だった。コーチのシャイからゴルフィングマシン理論を学び、難解な理論書を片手に毎日ビデオカメラで自分のスイングを研究しながらスイング構築をしてきた。現在では、クリス・コモにバイオメカニクスの知識を学び、地面反力のデータを確認しながらスイング構築し、異次元の飛距離を手にした。優秀なブレーンによってもたらされた質の高いインプットを、どのようにアウトプット(出力)するか検証し、アウトカム(結果)として確認する。このようなプロセスを経ているので、ちょっとした好不調の波があっても自信を保ち続けることができる。


デシャンボーのスイングに地面反力を取り入れ飛距離アップを実現させたクリス・コモ
デシャンボーのスイングに地面反力を取り入れ飛距離アップを実現させたクリス・コモ

今回の全米オープンに挑むにあたり、デシャンボーは2019年の全米プロを制したケプカのように、難コースをパワーで攻略するための策を練ってきた。メジャー制覇という結果を出すための準備として、スイング改造や肉体改造に関する質の高いインプットを行い、自らを大きく変革してきた。理想的な結果をイメージできたとしても、自分の行う準備に確信が持てなければ大胆に自分を変えることは難しい。インプットの質が悪かったり、理解が不十分だと、変化も中途半端なものに終わる。いつでも議論や相談ができる信頼できるブレーンがいて、彼らから質の高いインプットが供給されるからこそ、思い切った自己変革ができるのだ。デシャンボーの自信の裏付けは、良質なインプットだけではなく、彼を支える優秀なチームメンバーの存在もあるだろう。今回の全米オープンはデシャンボーの準備が整った段階で、勝負はほぼ決まっていたのかもしれない。

彼はこれまで、「変人」とか「狂った科学者」などと言われてきた。しかし、彼がこれまで行ってきた結果を出すためのプロセスは、科学的な裏付けのある、実に理に適ったものだ。メジャー勝利によって自らの戦略と理論の正しさを証明し、準備と結果の両面で「絶対的な自信」を持ったデシャンボーが、さらにどのような進化を遂げるのか注目したい。

(ニッカンスポーツ・コム/吉田洋一郎の「日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)


デシャンボーの技術についてはチョイス11月号(現在発売中)でも特集しているので、興味のある方はぜひ読んでいただければと思います。


◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。2019年度ゴルフダイジェスト・レッスン・オブ・ザ・イヤー受賞。欧米のゴルフスイング理論に精通し、トーナメント解説、ゴルフ雑誌連載、書籍・コラム執筆などの活動を行う。欧米のゴルフ先進国にて、米PGAツアー選手を指導する100人以上のゴルフインストラクターから、心技体における最新理論を直接学び研究している。著書は合計12冊。書籍「驚異の反力打法」(ゴルフダイジェスト社)では地面反力の最新メソッドを紹介している。書籍の立ち読み機能をオフィシャルブログにて紹介中→ http://hiroichiro.com/blog/