渋野日向子(22=サントリー)の1年は、昨年の自分ではない新しい自分を見つける旅だった。今年の国内最終戦、ツアー選手権リコー杯で3位に入った。苦しんだ年の最後で、初めて優勝争いにも絡んだ。4日間を通して渋野の顔に、戦う表情が帰ってきた。

TOTOジャパンクラシックと伊藤園レディースで渋野を取材した。弊社がネットで配信する「1打速報」で、全ホールついて回った。約2カ月に及ぶ米ツアーを中心とした海外遠征から戻り、国内ツアー2戦目の三菱電機レディースでは開幕戦に続く予選落ち。どん底の状態だった。

ラウンド中も最初は、ほとんど無表情に見えた。「スマイル・シンデレラ」から明るい笑顔が消えていた。ショットのスイングやパッティングもどこか自信なさげで、プレー後にも威勢のいいコメントはなかった。渋野らしさがなくなっていた。

コース上でもがきながら少しずつ前進している感じだった。TOTOジャパンクラシックでは、どん底の状態で3日間アンダーパーで回った。「ストロークやコース読みを、どう練習していいか分からない」パッティングが、多くのチャンスを逃しながらも、時々入るようになった。原因不明の右足裏痛で全力で振れなかったティーショットも、フェアウエーをキープする確率が高くなってきた。

昨年は、荒さやつたなさがあったものの、攻めの姿勢と勝負強さで、ワクワクさせられた。思うようにスコアが上がらなくても、何かをやってくれる期待感があった。そんなワクワクを今年初めて感じたのが、伊藤園レディース最終日だった。22歳の誕生日と重なったその日、何か吹っ切れた様な表情が印象的だった。

前半は2バーディー、1ボギー。フェアウエーキープは7分の7。正確なティーショットとアプローチで多くのチャンスにつけた。そして後半、3番で3つ目のバーディーを取った後の、7番、8番で連続バーディー。優勝争いには届かない位置にいたが、渋野のゴルフに勢いを感じた。ホールアウト後渋野は「22歳になって心の中もちょっと整理がついた。切り替えができた。自分自身がちょっとずつ変わっていっている。かなり成長を感じています」と話していた。

そして迎えたツアー選手権リコー杯。調子を取り戻し、スコアを伸ばした前半の2日間。風が吹いて伸び悩んだ第3日。風の影響を問われた渋野は「納得いってないのは、自分で曲げてしまった4番だけ。その後は自分のミスショットは少なかったので、特に悪くは考えていない」と、自分のプレーをしっかり前向きに捉える発言をしていた。そんなところに、渋野の復活を感じた。

最終日、3位で終えた渋野は「2020年は19年よりも価値のある1年だったと思います」と笑顔で言い切った。国内ツアーでの予選落ち、全英での惨敗、米ツアーでの苦闘。「そういう経験をやらないと前に進めない。以前に戻りたいという思いではなく、これから作り上げるという気持ちに苦しんで気付けました」。昨年は大きな結果がついてきた1年。プロ2年目は、結果ではなく、経験という大きな財産をつかんだ1年。コースで戦う姿を見て、記者自身も多くのものを学ばせてもらったと思っている。【桝田朗】(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ピッチマーク」)

JLPGAツアー選手権リコー杯・最終日 1番、ティーショットを放つ渋野日向子(撮影・上山淳一)
JLPGAツアー選手権リコー杯・最終日 1番、ティーショットを放つ渋野日向子(撮影・上山淳一)