記者という仕事をしていると、時々、衝撃的な発言に出くわす。世間を騒がすような事件の真っただ中であれば、こちらも身構えているので、衝撃は少ないように感じる。本当に驚かされるのは、何も身構えていない時。世間話やその延長線上のような話をしていた時に、実は相手が、初めて出会う感覚の持ち主だった場合だ。例えば相撲担当をしていた時、何げなく世間話をしていた当時の横綱鶴竜から「実は生まれてから1度も、怒ったことってないんですよ」と、打ち明けられた時は衝撃だった。

なんとなく経験上、穏やかな性格の人ほど、衝撃的な感覚の持ち主であることが多い気がする。ゴルフ担当をして、それを2度も感じさせられたのは古江彩佳(22=富士通)だ。最近、驚かされたのはタフネスぶり。5月25~29日に米西海岸のネバダ州ラスベガスで行われた、バンクオブホープ・マッチプレーで2位。5日で7試合、特に最後の2日間は2試合ずつの計4試合をこなす超過密日程の中、昨年のメジャー、エビアン選手権の4位を上回る、米ツアーでの自己最高順位を更新した。

日曜日の夜まで続いた決勝の余韻に浸る間もなく、数時間後の未明には、ラスベガスを飛び立った。約4時間のフライトを含む、5~6時間の移動を経て、月曜日の翌5月30日には、ノースカロライナ州サザンパインズの全米女子オープン会場で、元気に10ホールの練習ラウンドを行った。休みなしの中0日調整。米国内とはいえ、3時間もの時差がある移動をものともしなかった。

ルーティンとしていた、各試合前36ホールの練習ラウンドもしっかりと消化した。火、水曜日の2日間で残る26ホールを回り、木曜日からのメジャーに出場。結果的には、今季の米ツアー本格参戦後としては、11試合目(うち1試合は予選落ちなし)で初の予選落ちだった。だが第1ラウンド終了後に「疲れは?」とたずねると、衝撃的な答えを返していた。

古江 「疲れ? 疲れって何?」

いたずらっぽく笑っていた。もちろん「疲れ」という言葉を知らないわけはない。これほどまでのハードスケジュールをこなせば、疲れという現象が体に起きることも理解できる。ただ実感として、本当に疲れを感じていない様子だった。比喩として「疲れ知らず」という表現を用いることはあるが、本当にそんな人がいるのだと、153センチの体を大きく感じた。

古江には、もう1度驚かされたことがあった。稲見萌寧と賞金女王争いを繰り広げていた、昨年11月の昨季国内女子ツアー最終戦。賞金女王の行方は2人に絞られ、高まる緊張感-。ただ、そんなことは当の本人はまるで感じていなかった。

古江 「私、緊張しません。ゴルフの時は。生まれつき、緊張しないタイプなんです」。

取材で「緊張しない」と断言した選手に出会ったのは3人目だ。宮城・東北高時代の野球のダルビッシュ有投手と、08年北京五輪の時の競泳の北島康介。長く相撲を担当していたことなどもあるが、女子選手では初めて出会った。しかも自分に言い聞かせるように気を張って話すのではなく、ごく自然に話していた。

思えば試合直前に験担ぎでとんかつを食べるなど、パフォーマンスを発揮するために、消化の良いものを食べた方がいいなどの、栄養学とは無縁の豪快な性格だ。次のメジャーは昨年4位と相性の良いエビアン選手権(7月21~24日、フランス)。個人的に、たびたび驚かされてきた古江が、今度は日本中を驚かせるような快挙を達成するかもしれない。【高田文太】(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ピッチマーク」)

古江彩佳
古江彩佳