全英オープンを取材中、寮生活を1週間体験した。セントアンドルーズ大学寮に報道陣が数多く宿泊。学生たちはこの時期、部屋を明け渡しているようだ。一般客も滞在していたが、公式ホテル状態だった。

大学寮は複数あるが、選択肢は2つの寮しかなかった。セントアンドルーズ大学は英ウィリアム王子とキャサリン妃の母校。2人は1年生の時、大学寮生活を送った。優雅な寮生活を想像していたが、予約したのが遅く、いずれの寮もシャワー&トイレなしの部屋しかあいていなかった。経費節減の折、徒歩20分の街から外れた寮を選んだ。

“同寮”記者が「見た目は『ハリー・ポッター』に出てきそう」と評した通り、外見はシックな石造り。ロイヤルファミリーとの同寮経験への期待が勝手に高まった。スタッフに「ウィリアム王子とキャサリン妃はここで暮らしていましたか」と聞くと、「ここじゃない」と即否定。「別の寮だし、もっとセキュリティーは良かったと思う」と手短に説明してくれた。

部屋は机と小さなベッドだけとシンプル。シャワー&トイレなしと同じ条件のはずの同寮男性記者らは「部屋に洗面台はある」と言っていたが、私の部屋はなかった。共同で使うトイレとシャワーは一体型。ジェンダー時代の先取りなのか、男女兼用だった。脱衣場はなく服の置き場もない。トイレの取っ手に袋を掛けてそこに服を入れるしかなかった。足ふきは紙製。毎日、床がひどくぬれていた。足ふきはリトマス紙のように、ぬれた床の水を吸い取っていった。

バスタオル1枚を腰に巻いた裸の中年男性とすれ違うことが何度かあった。ここは家じゃない…と心の中でつぶやいた。

ある日、トイレ&シャワーが使用不可になっていた。広い寮を歩き回り、ようやく別のシャワールームを発見。小さなシャワーブースが4個並び、こちらも男女兼用。脱衣場もなく、手早く着替えてシャワーを浴びていると、物音がした。扉の隙間から大柄男性が服を脱ぐのが見え、慌てて目をそらした。隣のブースでシャワーを浴び始めた。

寮生活も終盤になると、紙製足ふきを折って二重にしたり、一気にトイレからシャワー、洗顔、歯磨き、化粧をすばやく済ませるすべが身についた。バスタオル1枚の中年男性に笑顔であいさつ。隣の部屋で連日深夜にどんちゃん騒ぎが行われていたが、疲れ切って爆睡。騒音が遠くで聞こえる子守歌状態だった。自分なりのルーティンを確立。いつの間にか「郷に入れば郷に従え」を実践していた。

ウィリアム王子やキャサリン妃も同寮の学生と騒いだり、習慣の違いも経験したのだろう。普通の学生生活を経験されたことが、親しみやすさにも少なからずつながっているのでは。貴重な体験を終え、勝手ながらいろいろと思いを巡らせた。【近藤由美子】(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ピッチマーク」)