今週、コラムを書くにあたって候補は3人いた。国内女子ツアーで史上3人目となる、初優勝から2週連続優勝を果たした岩井千怜。日本人37年ぶり2人目となる、全米女子アマ選手権優勝を飾った馬場咲希。そして継続中の記録としては最長となる、9年連続で米国男子ツアー最終戦のツアー選手権出場を決めた松山英樹。いずれも甲乙つけがたい快挙だ。

ただ“ニューヒロイン”として大きく取り上げられる女子2人に対し、松山のツアー選手権出場は、まるで“当たり前”。2人ほど大々的には報じられていない。女子2人は今後も、山のように各メディアから記事が出るはず。一方で、松山の快挙については、しっかりと説明できる機会は限られる。1人でも多くの人に知ってもらいたく、松山が果たしたことの“すごさ”について説明したい。

まず、25日から始まるツアー選手権(米ジョージア州)は、1年間のシーズンを通じて活躍した、上位たったの30人しか出場できない。松山は今季、昨年10月のZOZOチャンピオンシップ、今年1月のソニー・オープンと2勝し、年間17位で出場権をつかんだ。2勝しても17位というハイレベルな争いを、松山は未勝利のシーズンも含め、9年連続で勝ち抜いてきた。

そして「9年連続」は、出場資格獲得としては、昨年までのダスティン・ジョンソン(米国)の13年連続に次ぐ、歴代2番目に長い記録だ。これまでに8年連続は、07~14年のハンター・メイハン、10~17年のマット・クーチャー、昨年まで松山と並走していたパトリック・リード(いずれも米国)と3人いた。だがD・ジョンソン、P・リードの記録が今年途絶え、継続中の記録としては松山が最長となった。

D・ジョンソンとP・リードは、サウジアラビア政府系ファンドが支援し、高額賞金で話題を集める「LIV招待」を主戦場に移した。米国男子ツアー(PGA)と対立する団体への“移籍”で、記録が途切れた格好だが、今季の2人は不調。仮にPGAでシーズンを戦い抜いていても、出場権を得るのは容易ではない位置だった。

出場資格獲得としては歴代2番目の長さだが、D・ジョンソンは14年に「一身上の都合」で8月以降の試合を欠場している。ツアー選手権への「出場」に限れば、昨年までの7年連続止まり。今年は松山も首痛を抱えて棄権や欠場を繰り返しているが、出場することができれば、連続出場としては単独で歴代最長となる。

年間王者を争うツアー選手権は、これまでの年間順位に応じてハンディキャップマッチで行われる。年間1位のスコッティ・シェフラー(米国)が、10アンダーからスタートするのに対し、松山は2アンダーから。8打差を追う展開は容易ではないが、優勝者(年間王者)はボーナス1800万ドル(約24億3000万円)を手に入れる。LIV招待の高額賞金が話題だが、昨年よりも300万ドル、4億円余りも増額された。何よりも男子では日本人初となる、米ツアーでの年間王者を争う舞台に、毎年立てていることは、松山が世界のトップ選手であることの証明。松山も最終戦への連続出場は、マスターズ制覇とともに誇りにしている記録だ。

最近は首痛に悩まされていたが、前週のBMW選手権では全英オープン以来、約1カ月ぶりに4日間を戦い抜いた。「シーズン最後なので、頑張って、いい形で終われたらいいなと思います」と語っていた。いたって冷静。ニューヒロインの快挙はもちろん立派だ。ただ松山は、1年だけでも快挙の出来事を、9年も続け“当たり前”と周囲に思わせてきた。それこそが、快挙を上回る“すごさ”ではないかと、思わずにはいられない。【高田文太】(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ピッチマーク」)