「比嘉選手からの差し入れです」。こう書かれた張り紙の隣には、大量の「うまい棒」が置かれていた。10月に千葉県で行われた日本で唯一の米男子ツアー、ZOZOチャンピオンシップ。プレスルームと呼ばれる、報道陣控室には、多くの日本人にとってなじみがあると思われる、スナック菓子が無数にあった。届けてくれたのは、今季の国内男子ツアーでその後、賞金王となる比嘉一貴(27=フリー)だった。

ずっと「なぜ、うまい棒なのか」と、疑問に感じていた。調べてみると「うまい棒」を販売する「やおきん」は東京都の会社。沖縄県出身の比嘉との縁は感じない。「プロゴルファーだけに『うまい棒』にかけて、棒状のクラブを自在に扱いたい願望の表れなのか」など、いろいろと考えた。そのままシーズンを終えたが、偶然、疑問をぶつけられるタイミングがあり、聞いてみた。「なぜ、うまい棒?」。

比嘉 「ZOZOだったので、海外メディアの方もいっぱいいるかと思って選んだんですよ。もしも外国人の方が『うまい棒』を手に取ったら『日本のお菓子はおいしい』って思うはずだと思って。しかも、これが1個10円(厳密には今年4月から1個12円)と知ったら『すごい!』と、ビックリするんじゃないかと思って。日本を知ってもらう、興味を持ってもらうきっかけになれば、僕も大好きなお菓子なので、うれしいなと思って置かせてもらいました。メディアの方も何人いるか、全く分からなかったですけど『うまい棒』なら、いっぱい買っても財布にやさしいので(笑い)」。

事実「うまい棒」を手に取っていた海外メディアの人はいた。比嘉の狙い通り、1人でも多くの外国人が「うまい棒」を通じて、日本に興味を持ってくれたら、私も1人の「うまい棒」ファンとしてうれしい。同時に、この件を通じて、比嘉の根底にある考えに触れられたようにも感じた。

158センチの比嘉は、それまでの今平周吾の165センチを大幅に更新する、歴代最も身長の低い賞金王だった。ドライバー平均飛距離は今季ツアー46位の285・71ヤードにとどまったが、総合力で、1試合を残して早々と賞金王に輝いた。7月には全英オープンでメジャーに初挑戦。それに先立ち、6月には欧州ツアー2試合にも出場し、うち1試合は10位となり「やれるな、という手応えは非常に感じた」という。

何よりも、ZOZOチャンピオンシップを含め、大勢の海外選手との試合を例年以上に経験し「向こう(海外)の大きい選手に、悔しい思いをさせたい」と、胸の内を明かしたことがあった。世界に存在感を示したい思いが、日本を代表するスナック菓子の差し入れにも表れていたのかもしれない。

比嘉は今季最終戦の日本シリーズJTカップにも差し入れしており、この時は銀座木村屋総本店のあんぱんだった。「あれは僕が好きなやつです(笑い)」。どちらも報道陣には好評で、飛ぶようになくなっていった。

ちなみに今季の国内女子ツアーは、同じく歴代最も身長が低い150センチの山下美夢有(21=加賀電子)が年間女王に輝いた。くしくも山下も、たびたび菓子類などをプレスルームに差し入れ。もちろん、こちらも好評だった。男女ともに今季の年間王者は“差し入れ名人”でもあった格好。誰かを喜ばせたい、興味を持ってもらいたいという気配りが、パワーに頼らない繊細なプレーぶりに表れているのかもしれない。この記事を書くにあたり、気分を高めようと買った「うまい棒」を手に、そんなことを感じた。【高田文太】(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ピッチマーク」)

山下美夢有(2022年11月27日撮影)
山下美夢有(2022年11月27日撮影)