暮れゆく2019年。スポーツ界には、さまざまな出来事があった。6月には18歳のサッカー久保建英がレアルマドリードに移籍し、8月にはゴルフで渋野日向子が全英女子オープンを初制覇した。秋のラグビーワールドカップ(W杯)日本大会では、日本代表が悲願の8強進出を果たした。各担当記者がこの1年の話題を連載「2019 取材ノートから」と題し振り返る。

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渋野日向子(21=RSK山陽放送)のコーチを務める青木翔氏(36)は「教えないで教える」ユニークな指導法で、大躍進を支えた。指導のモットーは「老害にならないこと」という。その心は「教えすぎない」「先回りして正解を教えない」「失敗をどんどんさせる」というこれまでの日本で行われてきた指導法と正反対のものだった。

メジャーの全英女子オープン優勝や国内4勝と大躍進した渋野に対し、青木氏は1年間、徹底して基本のスイング、パットの練習を続けさせた。決して背伸びして、新しい技術を教えたり、知識を吹き込むこともなかった。「(日本では)最短距離をいこうとする。自分の人生を振り返ったときに、失敗して学んでいることが多い。だから、先回りして教えない。失敗して、痛い目を見た上で、どういう言葉を掛けるかが大事」と、渋野が苦しんでいても、青木氏は笑って見守っていた。

そんな青木氏が1度だけ渋野にカミナリを落としたことがあった。全英を終えてしばらくたったころ。周囲の人への敬意が欠けていると感じたときだ。その時の話を青木氏は、キャディーとの関係を引き合いに話してくれた。「プロとして戦うときに、一緒に戦ってくれるキャディーが必要だし、それに対して尊敬の念を持たないといけない。そこをむげにしたときに、ボクはめちゃくちゃ怒る。それはボクに対しても、支えてくれる家族でも同じ」。

そんな青木氏に対し渋野は「自分が1年間でここまで来れたのは、コーチのおかげ」と、最終戦の公式会見で感謝の意を表した。渋野の裏表のないすがすがしい態度は、両親の育て方に加え、青木氏の指導のたまものだと思う。青木氏は「技術を教える以上に選手として育てていかなくちゃいけないのがコーチの仕事」と断言する。新たな世代の台頭は何も、選手だけに限らない。

青木氏のような新しいタイプの指導者が、新しい時代をつくろうとしている。その青木氏が尊敬するというのが、ダルビッシュ有らを指導したプロ野球ロッテの吉井理人投手コーチ。その著書「最高のコーチは教えない」を読んで「オレ、間違ってなかったと思わせてくれた」としみじみと話していた。【桝田朗】

◆青木翔(あおき・しょう)1983年(昭58)3月28日、福岡県粕屋郡志免町生まれ。福岡大卒でプロ宣言して活動するもプロテストは通らず。11年プロを断念し、ジュニアの指導を始める。コーチになった理由は「自分のゴルフがうまくいかなかったから」。12年に青木翔ゴルフアカデミーを設立。これまで育てたプロは、渋野日向子を含め5人。3年前に結婚し、2歳になる長男がいる。