笹生優花の帽子のツバには、印象的な「刀」の文字が入っている。国内ツアーで初優勝する以前の昨年2月からスポンサーを務める、東京・銀座の日本刀販売専門店「銀座長州屋」が製作したものだ。父正和さんが刀好きで、同店を何度も訪れていたことを、深海信彦社長(75)が聞いたことなどが縁で、スポンサーを務めるようになった。

深海社長は「初優勝するまでは実力はあるけど知名度がない。そんな中で、マスコミから外国人のように扱われ、人気が出なかったら残念。日本人の心に訴えるような、強い選手になってほしかった。刀といえば武士。ご本人が『日本人の心を持って戦う』と言ってくれたのがうれしくて、うちの会社としては初めてプロスポーツのスポンサーを務めることになりました」と、当時を振り返った。当初、帽子の「刀」の文字は、1つ1つ手作業で縫い付けていた。

笹生は飛び抜けた実力から「女ウッズ」と、男子ゴルフのスーパースター、タイガー・ウッズに例えられることも多い。実は銀座長州屋には、97年11月、初来日したウッズも訪れている。深海社長が、ウッズに日本刀を贈った様子は、日米で大きく報道された。当時のウッズは21歳。若い時代から両者に会った深海社長は「将来、大きなことを成し遂げる人は目が違う。澄んでいる。ウッズ選手と1時間ぐらい会って話もしたけど、優花は同じ目をしている。(元横綱)朝青龍の土俵入りの日本刀を製作して会ったけど、ちょうど当時のウッズ選手と同じぐらいの年ごろで、やっぱりいい目をしていた。賞金王、横綱、世界一。共通するのは、いい目をしていること」と力説した。

また、同社長は笹生父子と親しく付き合う間柄だけに、笹生の完璧主義者の一面も明かした。「育ったのがフィリピンなので、日本でも米国でも、違う環境での試合には、なるべく早く、10日前には現地入りしたいんですよ。その地域になじむ体に仕上げてから、試合に臨みたい。非常に試合に取り組む姿勢がいちず」。ツアー初優勝を果たしたNEC軽井沢72は長野県、大会そのものがなくて中1週で2連勝を飾ったニトリ・レディースは北海道と、開催地に早めに入ってコンディション調整に余念がない。今年のメジャー初戦、4月のANAインスピレーションも、同2戦目の今大会も、前週の国内ツアーには出場せず、早めに現地入りし、時差を含め、時間をかけて体調を整えていた。「刀」に秘めた武士道精神と澄んだ目を携え、万全の準備で日本女子3人目のメジャー制覇を果たした。【高田文太】