史上最も若くて小柄な女王が誕生した。山下美夢有(加賀電子)が逆転で今季4勝目を飾り、史上最年少の21歳103日、史上最も身長が低い150センチの年間女王に輝いた。2打差2位で出て1バーディー、ボギーなしの71と1つ伸ばし、通算12アンダー、204。強風の中、同じ最終組の上田、岸部との我慢比べの展開を競り勝った。今季出場31戦で、トップ10が20度という安定感で2戦を残して決定。昨季までの「賞金女王」から、メルセデス・ランキング(MR)による年間レースとなって初代女王となった。

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握り締めた右手を力強く振り下ろした。150センチの山下が、ツアーの頂点を鮮やかな逆転優勝で決めた。18番パー4、3メートルのパーパット。外せば岸部とのプレーオフ突入という重圧に打ち勝った。直後に起きた大歓声。幼少から憧れたウッズ(米国)のような、こん身のガッツポーズ。表彰式では「ここまで強くなれたのは、たくさんの応援があったから」と涙を流した。新人だった20年からコロナ禍。長く無観客試合が続いた。声援をもらえる感謝の思いがこみ上げた。

今季、さらには山下のプロ人生を象徴する最終日だった。強風の中、スタートから14ホール連続パー。我慢が続いた。2位から出たが、一時は岸部に抜かれて3位に後退。それでも「チャンスが来るまで待とう」と耐えた。15番パー5で第3打を1メートルにつけてバーディー。上田、岸部と3人が首位に並んだ。すると16番で上田がダブルボギー。17番で岸部がボギーとし、18番を前に単独首位に立った。「強くなれたと思う。緊張感を楽しんでプレーできた」。風格十分だった。

今季序盤は西郷が10戦5勝と走っていた。同時期に山下は3戦連続予選落ちを経験し「落ち込んだ」。西郷と21年全米女子オープン覇者の笹生の2人は、19年プロテスト合格の同期。比較されることも多かった。それでも「私らしく。人とくらべたりはしなかった」と信じた道を進んだ。

ゴルフを始めた時期が同じ父勝臣さんとの二人三脚で、約20キロにしたポリタンクを持ち上げたり、両足に2キロの重りをつけて坂道ダッシュしたり、独自練習を重ねた。昨年は「レベルアップにつながる」と300万円の弾道測定機を自費購入。研究を重ねた。

6月の今季2勝目から、歴代3位の13戦連続でトップ10に入った。9月に3勝目を挙げた際には、第1日にツアー新記録の60をマーク。ツアー史に次々と名を残すうち、同期と比較する声も聞こえなくなった。今季開幕前は「全く想像していなかった」という年間女王と、日本人初の年間獲得賞金2億円突破を果たした。

時折、会見でも関西弁が出る素顔は普通の21歳。5月の国内メジャー、ワールド・サロンパス・カップ優勝と合わせ、5年シードを手に入れた。「海外の試合に挑戦したいという気持ちはある」。最も若くて小柄な女王には限りない夢がつまっている。【高田文太】

◆今大会で山下が達成した記録 20歳103日での年間女王は史上最年少。従来の最年少記録だった07年上田桃子の21歳156日を53日更新した。今大会の優勝で、今季の獲得賞金は2億円突破の2億327万967円。コロナ禍で20-21年統合で歴代最多52試合で争われた昨季は、賞金女王の稲見萌寧ら3人が2億円を超えたが、単年での突破は15年イ・ボミ(韓国)に次ぐ2人目で日本人初。生涯獲得賞金も3億783万4181円とし、史上88人目の3億円突破。また現在のツアーメンバーで最も小柄な150センチは、歴代年間女王の中でも最も小さい。これmで最も身長が低かったのは、横峯さくらと鈴木愛の155センチだった。

 

<山下美夢有(やました・みゆう)>

◆生まれ 2001年(平13)8月2日、大阪・寝屋川市生まれ。

◆サイズ 150センチ、52キロ。日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)の資料では、150センチは現在のツアーメンバーでは西村優菜と並び最も低い。ただしテレビ番組の企画で実際に身長を測定した際、山下は150・3センチで西村が149センチ。熱心なファンの間では西村よりも大きい認識。

◆競技歴 5歳の時に、同じくゴルフを始める父勝臣さんに連れられて練習場に行ったのがきっかけ。大阪桐蔭高3年だった19年、全国高校選手権女子個人戦で優勝。受検資格が1歳引き下げられた同年のプロテストに合格し、笹生優花、西郷真央と並び、史上初めてプロテストに合格した女子高生となった。昨年4月のKKT杯バンテリン・レディースでツアー初優勝。今季は5月の国内メジャー、ワールド・サロンパス・カップを皮切りに4勝。

◆名前の由来 「美しい夢を持ってほしい」という意味と、母有貴さんから「有」の1字を譲り受けた。

◆家族 両親と弟、妹。近大2年の弟勝将は、アマチュア日本代表のナショナルチームの一員。9月に国内男子下部ツアーで、史上7人目のアマチュア優勝。中学3年の妹蘭さんは今春にゴルフを始めたばかり。

 

■メルセデス・ランキング 女子ゴルフの国内ツアー、ならびに米ツアーのメジャーの順位をポイントに換算し、年間を通じての総合的な活躍度を評価するランキング。各大会の1位に与えられるポイントは、3日間大会が200、4日間大会が300、国内メジャーが400、メジャーが800。年間1位に付与されるシード権が、昨季は3年だったが、今季から4年となった。年間50位までに与えられるシード権が、19年までは賞金ランキングのみで、20-21年統合の昨季は賞金&メルセデスの両ランキング。今季からメルセデスに一本化された。最年少での年間1位は、19年の渋野日向子の21歳16日だが、同年は賞金ランキングに次ぐ位置付けで「年間女王」という扱いではなかった。

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