劇的な逆転で、松山英樹(31=LEXUS)が2年ぶり、アジア勢として単独最多となる米男子ツアー通算9勝目を挙げた。

首位と6打差の7位で出て、9バーディー、ボギーなしと9つ伸ばし、2年ぶりのビッグスコア「62」をマーク。通算17アンダー、267とし、最後は2位に3打差をつけた。22年1月のソニー・オープンで、崔京周(韓国)に並ぶアジア勢最多の8勝目。その後は首や背中のけがに悩まされたが、復活した。自己最高の賞金400万ドル(約6億円)を獲得。次はメジャー2勝目、米通算10勝目を狙う。

“ウイニングパット”を沈めると、松山は力強く右手を握り締めた。後ろに3組残していたが、2年ぶりの優勝を確信した観衆から大歓声で迎えられた。直前には、決めれば大会コース記録に並ぶ「61」だった、14メートルのバーディーパットがわずかにそれ、観衆から大きなため息が漏れた。米国のゴルフファンが、松山の復活を待っていた。3位だった22年5月のAT&Tバイロン・ネルソン最終ラウンド以来となる「62」。猛チャージで逆転し「これ以上は望めない、というようなラウンド。すごく良かった」と、笑顔で話した。

今大会は昨季の年間50位までなど、限られた選手しか出場できない格上げ大会だった。賞金総額は2000万ドル(約30億円)と高額になり、年間王者を争うポイントも高い。トップ選手がメジャー同様、本気で勝ちにきていた。松山は昨季年間50位。ギリギリで出場資格を得ていた。6打差の最終日逆転は容易ではなかったが、出だしから3連続バーディー。2番パー4は7メートルからチップインバーディーを奪い、波に乗った。

後半に入って10番から再び3連続で伸ばすと、圧巻は最終盤だった。15番パー4の第2打、16番パー3のティーショットを、続けて10センチにつけた。さらに17番パー5、ラフからの第3打を90センチに運び、3度目の3連続バーディーを決めた。ショットで伸ばす松山の真骨頂。特に15番は「打った瞬間、完璧だった」と、自己評価の厳しい松山が珍しく自画自賛したほどだ。

正確無比なショットと同様、代名詞の豊富な練習量も取り戻していた。優勝から遠ざかっていた2年間、首、背中と相次ぐ故障で棄権する回数が増えていた。持論は「練習しないと勝てない」だが、痛みで練習量を減らすしかなかった。加えて「やっぱり体も変化している」と、疲労の回復などは20代の時との違いも感じていた。消えない肉体の衰えへの恐怖。だからこそ原点に返って猛練習した。

昨年10月、日本で行われたZOZOチャンピオンシップのラウンド後、打撃練習場で“マン振り”を繰り返した。実験だった。試合後は痛みが出たが「すぐに取れた。痛みが出ても、治療すればすぐに戻せる」と対処法が分かった。この日も「去年までは、いつ痛みが出るか不安に思いながらやっていた。今年になってストレスフリーでやっていけている」と胸を張った。

米ツアー通算250試合目の節目で、自己最高の優勝賞金400万ドル(約6億円)を獲得した。ただ松山が求めているのは、賞金ではない。昨年末に「やっぱりメジャーで勝ちたい。もう1回勝ちたい」と語っていた。4月のマスターズ。再び頂点に立つ姿が、今ははっきりと見えている。